82 / 100

偏愛Ⅵ≪ハルカside≫2

「家に上がりますか?」 「上がる必要があるかな?さっさと全ての荷物をまとめてすぐに戻りなさい」 声は優しいはずなのに、どこか威圧的に感じる竜の父親。    だからだろうか、竜が車から降りようとしない。 「じゃあ荷物を取ってきます」 俺は竜の手を掴んで車を降り、部屋に向かった。 「竜…大丈夫か?」 竜は青ざめた表情で部屋につくなり夢中で自分の荷物をまとめた。 「もっと持っていかないと…」 「竜」 「まだあるよね…俺の服…」 俺の言葉も耳に入らないぐらいに、父親に言われた通り全ての荷物をまとめようとしている。 異様なぐらい焦っている竜を見て、俺は竜の手を止めた。 「竜、落ち着け」 手、めちゃくちゃ震えてる… 「早く戻らないと…」 泣きそうな顔して、不安そうな顔してる竜を抱きしめた。 そして竜の顔を触り、優しくキスをする。 「必ず迎えに行くから」 「うん…待ってる」 俺はマサくんからもらっていた、特注の小型のGPSをそっと竜の鞄の中に入れた。 そして大量の荷物を持って父親の車に戻った。 それをトランクに入れる際にもまたそのGPSを取り付けて、竜は車に乗って父親と帰っていった。 竜の怯え方が異常だった。 兄貴やマサくんは竜の父親がどんなやつか知ってるかもしれないと思い、連絡をして二人の住むマンションに向かった。 「いらっしゃいハルカちゃん」 「ごめん二人とも急に」 兄貴にこんな時間に来るなって怒られるかな?と思ったけど、無言でコーヒーを用意してくれていた。 「さっき竜くんの担任のルイちゃんに電話してみたけど、めちゃいい人そうだっていってたよ」 「そうなんだ…」 確かに見た目は紳士的な雰囲気で、誰が見てもいい人とちいそうな風貌をしている。 「人から見ればね。なんか闇がありそうとは言ってたけど」 「竜の怯え方が尋常じゃなかったんだ。鞄と車にGPS仕込んだから今すぐにでも連れ戻したい」 あの怯え方は異常だった。 1度や2度犯されたからなるようなもんじゃない。 もうずっと洗脳、支配され続けてきている。 「今行っても帰されるのがオチだろ」 「あの父親を家から出すいい方法…ないかな」 「ちょっと時間かかるかもしれないけど健康被害出た的な感じのクレームいれてみる。幹部の人だしなにか動くかも」 マサくんはそう言って、席を外して誰かに電話をかけていた。 兄貴は取り付けたGPSとPCを連動させて、今竜の鞄がどこにあるか、父親の車はどこにあるか確認していた。 「車が移動したら家に行ってみるか」 「移動しなかったら…」 「2日経っても家からでなかったら強行突破…」 しばらくして、マサくんが戻ってきた。 「薬品の知識ある人に1000人ぐらいから、会社にクレームの連絡入れてもらうようにしてみたよ。対応は竜くんのお父さんも絡んでるみたいだから、そのうち家から動くかも」 1000人を一気に動かせる力って… どれくらい人脈があって、どれくらい費用がかかったんだろうか。 まじでマサくんが味方でよかった。 「ありがとうマサくん」 「帝真が何事もないといいな」 「生徒にはそんな優しく出来るんだ」 「お前以外にはだいたい優しいぞ俺は」 「そーデスネ」 連絡しても既読にもならない。 繋がらない。 無事なのか。 あの父親の威圧感は何かしててもおかしくない。 ―翌日 車は全く動く気配が無かった。 「でも一気にクレームが入ったから、竜くんのお父さんにもそれが伝わってるみたいだよ」 「まじ?何か進展があればいいな…」 3時間おきにGPSの動きを交代で確認する。 少しソファーで寝ると次の日の朝になっていて、兄貴に叩き起こされた。 「いって」 「起きろ。車が動いた。帝真の家にいく」 いやもっと優しい起こし方ねぇの?とは言えずにみんなで車に乗り込んだ。 「もし家にお父さんがいた場合のこととか考えて、ボイスレコーダー録音しとこ。はい、ハルカちゃん」 「ありがとう」 そしてしばらく車を走らせ、目的地に到着して車を降りた。 「ちょっと行ってくる」 「待ってハルカちゃん」 マサくんも車から降りて、俺の首にネックレスをつけた。 「これ、小型カメラ入ってるネックレス。何かいい証拠が撮れますように。じゃ、行ってらっしゃい」 「ありがとう」 車から降りて竜の家の前までたどり着き、インターホン押してみるか…と思って玄関のドアの前に立っていると扉が開いた。 中から出てきたのは竜だった。 靴も履かずに竜が走り出した、俺は咄嗟に腕を掴んだ。

ともだちにシェアしよう!