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偏愛Ⅵ≪ハルカside≫1

「愛してます、ハルカさん」 両想いがゴールじゃないことは分かってる。 竜の親権者は父親だ。 俺が竜を守るためには、いつかその父親が壁になるだろう。 そのために、今のうちに動かないと―… 「マサくん、MY学園の規約ってある?」 竜の帰りを応接室で待つ間、俺はマサくんに質問をした。 「あるよー」 「どうやって見んの?パソコンで見んの?メモしてい?家でも見れる?」 MY学園は山田財閥が管理をしている。 だからマサくんに聞いたほうが早いとは思うけど… 好きなやつが、それも未成年で、父親も狂ってる。 だったら今の俺に何が出来るのか、規律を乱すことなく考えたい。 「スマホで見れるよ。学園のホームページから。ブクマと貼り付けしてあげる」 「スマホに貼り付け?文明の進化ってすげぇな。先進国万歳!」 「ほんとハルカちゃん機械苦手だよね」 「まじだ!画面に貼り付いてすぐ見れる!すげー!感動」 そう言ってマサくんは、俺のスマホの待ち受けに規約を張り付けてくれた。 まぁ俺はSNSどころかほぼスマホいじらねぇし、そもそもスマホデビューなんて高校卒業してからだぜ? ウォークマンや音楽に関する機械の操作は頑張って覚えたけど、この年で文明に取り残されているのは自分でも分かっております。 「あのさ、ハルカちゃん…。この前のビデオ…竜くん、ありがとうございます父さんって…あれさ。竜くんてもしかしてお父さんに…?」 「あぁ。そうだよ。4年間ぐらい。許せねぇよな。アイツがいつか俺の前に現れると思うんだ。だから事前に色々しておきたくて」 「そう。協力できることがあったら言ってね」 「ありがとうマサくん」 竜と一緒に住んで5ヶ月が過ぎた3月下旬のことだった。 「竜どうした?」 スタジオで収録が終わり、竜のいる楽屋に迎えに行くと雰囲気がおかしかった。 顔を覗き込むと、その時の竜の驚きと不安が混じった顔をしていた。 「いや、うん…」 ずっとスマホの画面を見たまま、今にも泣き出しそうで凍りついている。 「竜…大丈夫か?」 竜は深呼吸をしてから、ゆっくりとショートメールを返信していた。 嫌な予感がする。 「大丈夫か?誰から?」 「…父さん」 あぁやっぱり嫌な予感は的中した。 「ハルカさん…俺もしかしたらハルカさんの傍にいられなくなるかもしれない。父さんが許さないと思う」 過去を思い返して見ると、あの父親の呪縛は相当なものだ。 未だに竜とは顔の見えないセックスは父親を思い出す地雷になっている。 「竜にとって父親は大切な人なのか?」 「ううん…出来れば二度と会いたくない人。でも逆らえないんだ。不思議だよね…」 「なら、捨てちまえよ」 俺がずっと傍にいてやるから。 あいつの呪縛を解き放ってやるから。 ―…もう縛られるな 「まぁ…親を捨てるのは勇気がいるけどな」 「父さんの前に立つと足がすくむぐらい怖い…抵抗したいのに体が言うこときかないんだ」 「分かる。俺も母親がそうだった。でも俺たち兄弟は姉貴が一番だったから母親を捨てる決意をしたんだ。姉貴を失いたくなかったから」 政治家である父親が本当の家族を選んだ時から、母親は毒親と化した。 慰謝料と言われ渡された金は使いきれないほどだったが、母親はそれよりも愛が欲しかった。 選ばれるはずの自分が捨てられ、「あなたが生まれてこなければ」と長女である姉貴に酷く心理的虐待を繰り返し、その次の標的は俺だった。 姉貴が自殺未遂をした時でさえ、呼吸の浅い姉貴に「死ねばよかったのに」と言い放った。 優しかった頃のあの女の愛情を知ってる姉貴は、いつかまたあの優しい母親に戻るんじゃないかとずっと期待していたから。 だから認められたくて、頑張って。 その頑張りさえも当たり前で。 当たり前ですら気にくわなくて罵られて。 だから俺は、兄貴と一緒に姉貴を守るために母親を捨てることを選んだ―… 「捨てちまえば案外そのあとは楽で軽くなるぞ」 「できるかな…」 「怖いよな。大丈夫。俺がいるから」 「うん…」 仕事が終わり竜と一緒に帰ろうとスタジオを出ると、こちらを見ている人物に竜が気が付いた。 「―…っ!」 「竜。久しぶり」 「…父さん…」 父親? 竜の父親は笑顔でこちらに近づいてきた。 「新薬の開発がやっと終わって時間が空いてね。マネージャーさんに聞いたらここだって言うから」 「…そう、なんだ」 明らかに竜の雰囲気が変わった。 顔を上げずに父親が言うことを聞き続けている。 「もう春休みだろう?バンドも1週間オフと聞いているよ。さぁ久しぶりに家に帰ろう。1週間一緒にいれるね。荷物を取りに寮に行こうか」 竜は俯いたままで、無言の時間が過ぎていく。 「荷物は俺の家にあります」 「…そうか。世話になったね。君の家まで送っていくよ。荷物を取りに行ったら家に戻ろう」 「…はい」 二人で竜の父親の車に乗り込み、俺のマンションへと向かう。 竜の顔が真っ青になっていて、車内で竜は一言も話さずにいた。 俺は自分の家を父親に指示して、しばらくするとマンションに到着した。

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