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偏愛Ⅵ≪竜side≫11

山田先生の紹介で優秀な弁護士をつけてもらい、親権者は父ではなくなり、祖父母が俺の監護者になった。 俺は声を挙げて実親からの性被害を訴え、この事件がキッカケになり世の中が徐々に変わることになる。 『この映像を見る限り、君も合意していてお父様を求めているよね?』 父は大金を使い日本でもトップクラスの優秀な弁護士を雇い、証拠映像を提出して自分が有利になるように口裏を合わせていた。 裁判の結果、父は5年の実刑にしかならなかった。 しかし同じような経験を持つ人、現在もされている人が声を挙げるようになり、法律も厳しくなっていくことになる。 裁判中、俺はまだ未成年なので世間体を考えハルカさんと暮らすのではなく、きちんと寮で生活するか祖父母と暮らすかしたほうがいいと弁護士に言われた。 「だから基本的には寮で…長期休みはハルカさんのところに行こうかな。週末も会いたいな…」 「分かったよ」 「平日も…会えるなら少しでも会いたい…海外ツアーで9月までいなくても…顔見たい。声聞きたい…」 今までずっと一緒に住んでたのに、離れるのが寂しくて。 俺は我慢出来ずに泣いてしまった。 「泣くなよ」 「だって俺、ハルカさんとずっと一緒にいたい…離れたくない」 ハルカさんは無言のまま俺が落ち着くまで背中をさすってくれた。 そしてしばらくして口を開く。 「お前…誕生日8月21日だよな?」 「うん」 「あと4ヶ月か…」 そしてしばらく黙ったあと、ハルカさんは再び話し始めた。 「竜。今日は何の日でもねぇし、ベッドの上でなんてロマンチックじゃねぇんだけど…竜の誕生日がきて、18になったその日に入籍しよう」 「え?」 予想していなかった発言に俺は驚き、ハルカさんの顔を見ると真剣な顔をしていた。 「ずっと考えてた。今回の件で何かあると家族証明だの保護人証明出せって言われてもどかしかった」 「でも俺まだ高校生…」 「18になりゃ成人。結婚できる。そしたら一緒に暮らしても問題ねぇよな?俺は夫なんだから」 それは…そうだけど。 急な提案に頭が追い付かない。 「いや…だって俺…体…汚い…」 「綺麗だよ」 「…あの父の血が流れてるし」 「関係ない。竜は竜」 「ハルカさんに酷いこと言った…」 「あの冷血兄貴の弟だぞ?鋼メンタルなめんな」 「迷惑たくさんかけた…」 「もう忘れた」 ハルカさんは、俺が何を言っても即答で返す。 「…でもいいの?…俺なんかで」 「竜がいいんだ。竜以外はいらない」 「俺も…ハルカさんじゃなきゃ嫌だ」 「じゃあ竜、改めて…俺と結婚して欲しい」 「はい…喜んで」 MAR RE TORREは4月下旬から9月まで海外ツアーをやるため、8月に1週間だけ日本に戻りそのときに入籍することになった。 ハルカさんが海外にいる間、俺は文化祭の準備で基本的には寮にいて、週末に祖父母の家に顔を出す生活を続けた。 ―8月某日 「今日ハルカさんお迎えに来るんだろう?」 「うん、もうすぐここに着くって」 「緋禄の葬式ぶりだからなぁ。ちゃんと挨拶しないとねぇ」 そんな話しを祖父母としていると、車の音がして、インターホンが鳴りハルカさんが迎えに来た。 「こんにちは」 久しぶりに見たハルカさんは高そうなスーツを着て、正装をしていた。 「スーツ?どうしたんですか?撮影でもあった?」 「お久しぶりです、ハルカさん。どうぞ座って…」 祖母がお茶を用意して椅子を案内し、言われた場所にハルカさんは腰かけた。 そしてしばらくして、お茶を飲んでから深呼吸をしたハルカさんが頭を下げて祖父母に話し始めた。 「ご挨拶が遅くなってすみません。竜の誕生日に入籍をします。事前に何の報告もせず申し訳ありません」 え―…? まさかの発言に、その場にいたハルカさん以外が驚いていた。 「俺はまだ22で世間知らずで、音楽しか分からないし、タトゥーも左腕にがっつりいれてます。親とも縁を切ってます」 だから正装で着たんだ。    二人にちゃんと挨拶するために… 「あんな報道のあと竜が男と結婚だなんて、世間から何て言われるか分かりません。でも竜は必ず幸せにします。何があっても守り抜きます。ですからどうか安心してください」   こんなの、嬉しくて泣きそうだよ―… 「それを伝えたくて、今日ここに来ました」 「ハルカさん…顔をあげてください」 祖父が笑顔でハルカさんを見つめて言った。 「あの男のせいで娘が精神疾患になって、緋禄も亡くなって、娘も亡くなって…竜まで死のうとしていたのを報道で知りました。でもあなたが救ってくれた。大切な孫を。感謝しかありません」 祖母は嬉しさのあまり泣いていて、泣きながら俺の両手をぎゅっと掴んで言った。 「竜…これからたくさん幸せになりなさい。竜にはその権利があるからね」 「おじいちゃん…おばあちゃん…ありがとう。結婚しても、俺いつでも二人に会いに来ていい?」 「もちろん」 父の配下にいた頃、祖父母にも危害が及んではいけないとなるべく会わないようにしていた。 それでもたまに父の目を盗んで会いに来ても、とても優しい二人が大好きで。 でも大好きだからこそ守りたくて、自分から距離を置いていた。 あぁ、もう俺は自由なんだ。 幸せになってもいいんだ。 温もりを求めていいんだ。 みんなの優しさが嬉しくて、涙が止まらなかった。 そして8月21日、18歳の誕生日に俺は哀沢竜になった。 世間への公表はまだまだ先で、学校でも結婚していることは内緒だけど。 「ひー兄、俺結婚したよ。みんなにはまだ内緒だけど、ひー兄には報告したくて」 「無事に竜をもらったぞ緋禄。必ず幸せにする。だから安心して空から見てろよ」 二人で結婚指輪を見せつけて、ひー兄の墓前で結婚の報告をした。 ねぇ、ひー兄 俺はひー兄の後を追おうとしたけど、今とても幸せだよ。 俺がそっちに行くのはまだまだ先になったけど… そっちでひー兄に会ったときは、俺を救ってくれた大切な旦那様の話しをたくさん聞いてもらうから。 だから、しばらく待っててね。 【to be continued】

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