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偏愛Ⅵ≪竜side≫10

ねぇ、ハルカさん。 俺が生きていた理由は、母さんとひー兄を守るため。 それだけを考えて、ずっとあの人に犯され続けてきたんだ。 だから母さんもひー兄もいないのなら、生きてる理由なんて無いって思ってた。 だけどね、今は… ハルカさんと一緒に生きていきたい。 最初はね、「好きなんだよお前が」って言われても何の感情も沸かなかった。 何で俺なんだろうって。 俺以外にも人はたくさんいるのに、変わった人だなって。 どうせすぐ別の人を好きになるだろうなって。 ―だって俺、汚れてるから それでも俺を好きでいてくれて、 ハルカさんの優しさが温かくて、 俺の心に徐々に入り込んできて、 あなたの優しさに甘えて、 段々と生きているのが心地よくなってきて、 今ではもう、ハルカさんが隣にいない人生なんて考えられないよ。 「愛してるよ、竜」 俺の心を温かくするその言葉、 俺を満たす体温、 俺を呼ぶ素敵な声、 俺を見つめる綺麗な目、 優しく包み込んでくれる筋肉質な体、 タバコと甘いものが混ざった味のキス、 居場所を知らせてくれる香り、 他にも数えきれないほど、魅力的なところがたくさんあるハルカさん。 全部もう、俺のものなんだよね? ハルカさんがいなかったら父から解放されることは無かった。 捨てるなんて、そんな勇気も出せなかった。 生きているほうが地獄だった。 今回もまた洗脳されかけて、あぁもうこんなことが続くのなら死んでしまいたいって思った。 でもね、 別れるときにしてくれたキスの感触と、 ハルカさんが抱きしめてくれた温もりがまだ微かに残っていて、 あぁ、今死んだらもうハルカさんには会えなくなる。 もう一度だけ会いたい。 でも叶うならば、俺はハルカさんとこれからも一緒にいたい。 って、ずっとずっと頭の片隅にはあって。 だから、俺に生きる希望と勇気をくれたのはハルカさんなんだ。 こうしてハルカさんの全てで俺が満たされていくのがたまらない。 たまらなく、愛しい―… こんな俺を好きになってくれて 愛してくれてありがとう 「愛してます、ハルカさん」 「俺とハルカさんは似てるね」 次の日の夜、ベッドの中で風呂上がりのハルカさんに声をかけた。 「音楽好きだし、肉好きだし……親も捨てた」 「そうだな」 ハルカさんは濡れた髪の毛をタオルで拭きながらベッドに腰かける。 「ただ違うことが1つある」 「何?」 タオルの動きを止めて、顔をしかめて言った。 「俺は兄貴のこと愛してない」 「ははっ。でも哀沢先生はハルカさんにとって大切な人でしょ?」 ハルカさんは目線を外して、少し間を置いて答えた。 「…まぁな」 「じゃあ一緒だね」 「そういうことにしとくか」 兄弟して素直じゃないところが似てるな。 哀沢先生もハルカさんのこと大切に想ってるみたいだし。 「俺はハルカさんが一番だよ。ハルカさんじゃなきゃ嫌だ」 「俺も」 じゃあやっぱり俺たち似てるなって笑いながらキスをして。 乾いてない髪の毛から水滴が俺に当たる。 「ハルカさん風邪引くよ?髪の毛…」 「乾かす時間が惜しいからこのまま抱く」 「いいよ。風邪引いたら俺が看病するから抱いて」 「それならむしろ風邪引くわ」 そんな冗談を笑いながら言って、 こんなことでさえ幸せ過ぎる。 これからもハルカさんと一緒にいたい。 ねぇ、 俺を好きになってくれてありがとう。 俺を助けてくれて守ってくれてありがとう。 もう離れないから、覚悟してね―… あれから事務所や学校にも事実を説明して、父から連絡があっても俺に接近出来ないようにしてくれた。 でも俺の親権者は父親だ。 それがどうしても引っ掛かっていて、ある日ハルカさんに相談をした。 「ハルカさん、俺…父さんのこと訴えようと思う」 「え?」 「少しでも俺みたいな人が声を挙げられるように…苦しんでる人が減るように…世の中が変わるように動きたい」 俺は父に社会的制裁をきちんと与えたい。 あなたがしていたことは、とても酷いことだと知って欲しい。 「辛いぞ。過去を思い出して。色々聞かれて。裁判となればあいつとまた対面する。世間も必ず騒ぐ。耐えられるか?」 「うん。でも…世界中から俺が否定されても、ハルカさんだけは俺の傍に居てくれる?」 「もちろん。俺に出来ることなら何でもする。一緒に戦おう」 「うん。頑張る」 俺は父の実名を公表し、戦う決意をした。

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