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偏愛Ⅵ≪ハルカside≫5
あのことから数日が経ったある日。
「ハルカさん、俺…父さんのこと訴えようと思う」
思ってもみなかった言葉を竜は言った。
「え?」
「少しでも俺みたいな人が声を挙げられるように…苦しんでる人が減るように…世の中が変わるように動きたい」
竜は父親に社会的制裁をきちんと与えたい、と強く言っていた。
「辛いぞ。過去を思い出して。色々聞かれて。裁判となればあいつとまた対面する。世間も必ず騒ぐ。耐えられるか?」
「うん。でも…世界中から俺が否定されても、ハルカさんだけは俺の傍に居てくれる?」
「もちろん。俺に出来ることなら何でもする。一緒に戦おう」
「うん。頑張る」
俺はずっと思っていた。
父親から回収したビデオを見てもいいと言われてそれを確認したときから、ずっとアイツを許せなかったから。
あんなことを、学園に編入する前は毎日していたのかと思うと…
だからずっとアイツに社会的制裁をくらわしたいと思っていた。
ただ、一番辛かった竜の気持ちが最優先だから俺が勝手に突っ走るわけにはいかなかった。
竜はもうこのことを一生思い出したくないのかもしれない。
触れて欲しくないのかもしれない。
それならいずれ、父親のいない海外に移住すりゃいい。
そうやって逃げればいい。
それなら会う可能性が低い。
そういう方法だってある。
だから竜が父親をどうしたいのかは、ずっと気になっていた。
でも勇気を出して戦うというのなら、俺はもちろんお前の味方だから。
アイツをブッ潰して、竜が世間から非難されようとも守り続けてやると思っていた。
―…やっぱ強いよ、竜
マサくんに相談し、優秀な弁護士をつけてもらい、親権者は父親ではなく監護者が祖父母へと変わった。
竜の父親と戦う間、たまに竜がフラッシュバックする。
俺は代わりに弁護士と話したり資料を集めたりしようとするが、保護人証明はあるか?家族証明はできるか?どこに行ってもそんなことを言われた。
くっそ…ウザすぎる。
「マサくん、学園の規約読んだよ」
「あんなにあったのにー?すごい!」
「生徒は結婚しても変わらず学校に通えるんだね」
「うん。もしかして…竜くんと結婚するの?」
「いつにするかは決めてないしプロポーズもまだだけど…多分在学中になると思う。でも世間への公表は数年後かな。アイツとの戦いが終わってから」
4月-9月まで、MAR RE TORREは海外ツアーがあるし、竜もきちんと学校は卒業して欲しい。
そしてメンバーと、JEESのメンバー、双方の社長に許可を取る。
竜のことは全員報道で知っていたから、俺の本気を伝えたら了承してくれた。
「アンタしか竜ちゃん守れないんだから、とっととしなさいよ!」
「ありがとう」
竜以外から結婚の許可をもらったものの、肝心の竜にいつプロポーズするかは決めてない。
親を捨てて一緒になるんだから、盛大にしたほうがいいよなぁ。
そういうセンスねぇんだよな俺…
ある日、弁護士と話し終えた竜の元気が無いことに気付いた。
話しを聞くと、竜はまだ未成年なのでこの騒動が落ち着くまでは世間体を考え、きちんと寮で生活するか祖父母と暮らすかしたほうがいいと弁護士に言われたそうだ。
まぁ、そりゃそうだよな。
「だから基本的には寮で…長期休みはハルカさんのところに行こうかな。週末も会いたいな…」
「分かったよ」
「平日も…会えるなら少しでも会いたい…海外ツアーで9月までいなくても…顔見たい。声聞きたい…」
竜は泣き出してしまった。
「泣くなよ」
「だって俺、ハルカさんとずっと一緒にいたい…離れたくない」
俺は泣く竜を抱きしめ、背中をさすりながら脳内をフル回転させた。
夜景の見える綺麗なホテルで、花束と指輪を渡してプロポーズってのがオーソドックスかなと思っていたが…
もういいわ、そんなんどーでも。
「お前…誕生日8月21日だよな?」
「うん」
「あと4ヶ月か…」
MAR RE TORREの海外ツアー、よりよって何でこの時期?と思いつつ、脳内でLIVEの日程を甦らせる。
まぁ、なんとかなるか。
「竜。今日は何の日でもねぇし、ベッドの上でなんてロマンチックじゃねぇんだけど…竜の誕生日がきて、18になったその日に入籍しよう」
「え?」
予想していなかった発言に竜は驚き、俺の顔を見る。
「ずっと考えてた。今回の件で何かあると家族証明だの保護人証明出せって言われてもどかしかった」
「でも俺まだ高校生…」
「18になりゃ成人。結婚できる。そしたら一緒に暮らしても問題ねぇよな?俺は夫なんだから」
ずっと考えてた。
お前をどうしたら守れるのかを。
守るためには何をすればいいのかを。
ずっと、ずっと考えてた。
「いや…だって俺…体…汚い…」
「綺麗だよ」
「…あの父の血が流れてるし」
「関係ない。竜は竜」
「ハルカさんに酷いこと言った…」
「あの冷血兄貴の弟だぞ?鋼メンタルなめんな」
「迷惑たくさんかけた…」
「もう忘れた」
俺はずっと竜を手に入れたくて。
手に入れたからには共に幸せになりたくて。
幸せになるなら隣にいるのは竜じゃなきゃ嫌だから。
「…でもいいの?…俺なんかで」
「竜がいいんだ。竜以外はいらない」
「俺も…ハルカさんじゃなきゃ嫌だ」
「じゃあ竜、改めて…俺と結婚して欲しい」
「はい…喜んで」
MAR RE TORREは4月下旬から9月まで海外ツアーをやるため、8月に1週間だけ日本に戻りそのときに入籍することになった。
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