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第1話 社畜が異世界に転移①

 満員電車、サービス残業、睡眠不足……社畜にとっては普通の毎日だ。心と精神、健康まですり減らすようにして、生活費と毎月わずかしか残らない金の為に働いている。  そんな俺が、寝る前にノートパソコンでエロゲーしても許されると思うんだよな。……彼女いないし。 「プレイヤー名は直哉っと」  新しく買ったエロゲーのプレイヤー名をいつも通り本名に書き替えた。5000円もしたゲームなのに、あまり好みではない。なんというか、グロいんだよなあ。今の所一度も抜けないし、ホラーゲームをプレイしている気分だ。 「この王子グレンシアってキャラ可哀想すぎるだろ……」  脇役が死ぬたびに、なんか理不尽すぎてしんどい。ゴブリンの繁栄というエロゲータイトルからしても、地雷臭はしていたのだが、ランキング1位に魅かれて買ってしまったのだ。  5000円がもったいないので、クリアまでは頑張る事にした。数十時間程はプレイしただろうか、クリア画面にエンドロールが流れる。なんか、作った人には申し訳ないけど、キャラが誰一人として幸せにならない鬱ゲー過ぎて無理でした!  ――その時、画面におかしなウィンドウが開いた。  『異世界に転生しますか?』  『する』『しない』 「できるもんならしたいっつーの、スーツのない世界に行きたいよ……」  俺は『する』をマウスのカーソルでクリックした。  画面が光り、視界が真っ白になる。  は? 冗談だろ? ゲームでこんな怪奇現象なんて起きる訳が無い。  視界が戻り見渡せば、見た事も無いくらい澄んだ空と木々に囲まれている。空気が冷たい。朝だろうか? それとも空気が綺麗過ぎるだけ? 都会に住んでいた俺の肺が驚くくらいに呼吸していて気持ちがいいんだ。思わず両手を開いて深呼吸をした。    異世界に転生……いや、転移したという現実を受け入れて悩めるほど強くない俺は、現実逃避をしているのかもしれない。しかし、今後の事を考えれば悩まずにはいられない訳で。俺は恐怖を押し込めて、頑張って頭を動かす。    ガラガラガラッ!  馬車!?  俺がいるのは街道だ。土の地面が整備されていて、森の中を突っ切って開拓されている。  こんな普通に馬車が通ったという事は、間違いなく俺の居た国ではない……よな?  パシンッ!  頬を叩いても、つねっても痛い。……夢ではないな。  俺は街道を見渡せるだけ見渡した。俺の安アパートからこんな壮大な自然が見渡せる場所に移動するって事は、異世界転移だよな、やっぱ間違いないよな!?    ここって……まさか、さっきまでやってたゲームの中? 『ゴブリンの繁栄』に転移した?

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