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第101話 心の声が聴こえたら恋愛最強説※ちょいせくはら

 アルが暮らしていた実家はとても広い屋敷だ。  一部屋ずつ見て回って廊下、キッチンや風呂場まで探すが、どんなに探してもディアドがいない。  アルは膝から崩れ落ちた。  掛ける言葉が見つからない。  彼らにとって家族や友人も知人すら居なくなった世界だ……。 「どうしてこんな……っ」 「アル……きっと、どこかにいるはずです」 「殿下、申し訳ありません……」 「謝らなくていいのです。気持ちは分かります……私も戸惑っています」  グレンシアも家族に会えないのか……? 全員、消えてしまったのか?    俺たちは不安を抱き混乱している。  頭ではわかっているんだ。こんな時ほど冷静にならないとって……でも、泣き崩れたアルを目の前にすると胸が締め付けられてまともな言葉1つ出て来ない。 「アル、あの方は……」  隼人さんが窓から人影を見つけた。  顔を上げたアルは確認もせずに庭へ走り、階段すらも滑るように降りる。 「父上……!」    何故か庭で畑仕事をしているディアドは汗を拭いこちらを見た。 「アル! 無事だったか!」 「父上、この国は……」 「うむ。何故かは分からぬが、王族貴族以外が姿を消したのだ。王都では貴族が働き、王族を養う必要がある。だから、私も畑仕事をしている訳だ。ただ……封印の力を感じる。他の者たちは封印されたのかもしれないな」 「……」    一通り話し終えると、アルがディアドに抱き着いた。 「父上が無事でよかった」 「それはこちらの台詞だ。アルが無事で私はとても嬉しいっ」  それはそうだよな。人がいない城と街では家族だけ無事とは思えなかったはずだ。土で汚れるからというディアドの言葉を無視して、アルの頬は汚れていた。俺はもらい泣きで号泣。  その後、グレンシアも家族と再会できた。  問題はなぜ俺たちがここに居て、どうやって戻ればいいかになった。日本とこの世界が陸続きになれば。その言葉が頭を過る。  日本とこの世界はすでに繋がっているのか? もっと雪葉ちゃんから情報を得ていればよかった。  そうだ。   「雪葉ちゃん! 来てくれ!」  雪葉ちゃんを呼んでみる。すると現れたのは、ゴブリンの耳を持つジアンだった。  懐かしいけど、雪葉ちゃんの方がいい俺。 「主よ、失礼な! 我で何が不服なのだ!」 「ご、ごめんな?」    ジアンは状況を説明してくれる。 「件のゴブリン……アツマシノの力で我々はこの世界に居る。奴は自分の毛を与えるにふさわしいか、試しているのだ。この世界の住人を封印したのもアツマシノだろう。100年の恋を証明すれば、認めてもらえるかもしれないな」 「つまり……この世界で自分たちの恋を見せつけろってこと?」 「まあ、そういう事だ。では、我は神らしく見守っている、さらばだ!」  俺とグレンシアの恋が100年続くみたいなロマンティックはさすがに考えた事がなかったなあ。俺だってそこまで乙女思考じゃない。そんなロマンス小説のような事……。  俺はグレンシアの顔をじっと見た。  まあ、グレンシアはどう見てもロマンス小説の相手役に相応しいよな。俺が男でフツメン、元社畜なのも設定的には……完全にやおい小説だなうん。  やおい小説もロマンスなのか? そっち方面に詳しくはないが、とにかくグレンシアはどんな小説でも似合うぞ!  雪葉ちゃんの話を聞いていたディアドが畑仕事をしつつ神話について語り、詳細を教えてくれる。 「元々アツマシノ様は恋の神様だった。つがいを失った事で物の怪になったそうだ。試されるのは真実の愛。100年続く恋なのか、それを試すのが好きな神様だったと近年の聖書には書いてあるな」  そう言いながら可愛い小さな芽を間引きする姿は完全に農家さんだ。ディアドは腰を叩いて立ち上がると屋敷を案内してくれた。    ……試練が始まったというが、俺たちに変化はない。    気がかりはあるものの日が暮れてしまう。俺たちはそのままアルの屋敷へ泊まる事となった。 「グレ……」  俺はグレンシアと風呂へ入ろうと思ったんだけど、彼はディアドやアルと話し込んでいる。 「隼人さん、俺たちだけで風呂に入りましょうか」   「そうですね。積もる話は尽きないでしょう」  俺は隼人さんと屋敷の温泉風呂へ来た。使用人が居ないのに綺麗に掃除されている。ディアドは几帳面で綺麗好きなのだろうな。まあ、普段の職務も無くなって単に暇なのかもしれない。 「はーよかったあ、お風呂に入れるのは助かりますね」 「直哉さんはお風呂が好きですねえ」   「つあ!?」  俺ときたら浴室で滑って、以前と同じように隼人さんに抱き止められた。 『あっぶない。本当にドジだなこの人』 「!?」 『まあエロい体を抱きしめられたのでいいですけど』    ……おかしい。隼人さんの心の声? が聞こえる。  ん? 俺の体がエロいってどういう事!?  距離を取る俺に隼人さんは不思議そうだ。心の声は触れた時だけ聴こえるのだろうか? 俺は隼人さんの腕に少し触れてみた。 『まあ、アル以外にはもう興味ないですけど』  俺は安心して隼人さんの顔を見る。 「どうしました?」 「いやっ……別に、なんでもないですよ」    正直に話すべきか迷うが、エロいと思ってる心の声聞こえちゃいました! とか、言えないだろ!? 「直哉さん?」 「いや、なんか久しぶりの異世界に緊張しちゃったんですかね!?」 「だ、大丈夫ですか?」 「全然平気ですけどね!」 「そ、そうですか……」    風呂から上がってリビングへ入る。そこに居たのはご機嫌斜めになったグレンシアだ。勝手に隼人さんとお風呂に入った事を怒っているのか、俺の顔をじっと見ている。 「……」  俺はグレンシアにそっと触れてみた。 『直哉さんはまた警戒心もなく、隼人の前で裸になるなんて……』 『警戒心の無さも直哉さんの可愛らしさですが、その度に私がどんな想いになるかなんて……わからないのでしょう』 「ご、ごめん」 「……」 『可愛い。反省している時に斜め下を見て謝る姿がとても可愛い』 「……!」 『この手は……』  グレンシアは俺が触れている手をすくい上げ、手の甲に口付けをしてきた。   『私へキスのおねだり?』  ち、違うよ!? お、おおお俺は別に! うわああああっ!  心の声が聞こえるとか言えないって!  こんな包み隠さず愛の言葉が分かるとか、とてもじゃないけど言えないよっ!  赤面して俯いた俺をグレンシアが撫でてくる。 『可愛い、世界で一番可愛い』 「――っ!」  俺たちと同じくリビングに居るアルは事情を察したらしい。俺の腕に触れてきた。 『心の声が聞こえるとは面白い状態になっているな』 『アル!』 『お前の秘密は守るよ』 『あ、ありがとう!』  アルに触れれば心の声で会話ができる。不思議な現象だ。 「……アル、どうして直哉さんに触れているのでしょうか」    グレンシアが嫉妬し始めてしまいアルは手を離す。  人の心が分かる。これがアルの生きる世界なんだよな。いや、触れなきゃ聞こえない俺は楽なもんだ。  アルが少し困ったように肩を竦め微笑した。  グレンシアはご機嫌斜めな様子で俺を抱きしめてくる。 『誰かに触れられて、直哉さんが嬉しそうな顔をするのは嫌だ。私が触れた時だけ喜んで欲しい。そもそも私以外が直哉さんに触れる事さえ許せない……アルにあんな顔をして、私の心を乱すのだ。最愛の人はまるで小悪魔のよう』 「……っ!」  ヤンデレ嫉妬、可愛いかよっ! いや、ちょっと怖い。でも可愛い……っ!  俺の事が大好きなのかっ! もう! 愛しいなっ!  グレンシアが嫉妬深くて少々ビビるものの、誰に対しても優しくて誠実な王子様がヤンデレレベルで愛してくれている事が素直に嬉しい。 「嫉妬してくれてありがとう。嬉しいよ」  俺はグレンシアの想いを当ててキスをした。  抱き着いて、大丈夫だって言ったら、強く抱きしめられる。  王子様の心の声がやばいことになっているんだがっ――!

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