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第102話 酷い言葉をぶつけてしまった

 俺は1人部屋をもらった。  心の声が分かる状態でグレンシアと一緒に寝たら俺の心臓が持たないよ! 「と、とにかく問題はアツマシノだ! 考えないと!」  俺はぶんぶん頭を振ってから、綺麗に整った大きなベッドへ寝そべった。 「アツマシノは大切な恋人を失ってしまった。なのに恋を試すのはやっぱり恋の神様なんだよなあ」  愛する人を失ったからって下着泥棒とか、あんな頭悪い事するとかあり得ない! って女性には思われるだろうけどさ、俺は男として少しわかるぞ。やけになって願望へ忠実になってみたけど、満たされない、虚しいだけ。  でも、他に何をすれば満たされるかもわからない。男がエロゲーとかエロ本とかに逃げる時って、ストレスがたまったり、しんどい時とか、辛い事があって現実逃避したい時なんだ。  そういうのってさ、男なりの自己防衛なんだよ。女性にはくだらないって言われそうだけど……。  いや、女性だって化粧すると気分上がるとか言うしな、あれと同じって! ……姉ちゃんに言ったら絶対怒られるな。おまけに妹が口を利いてくれなくなるだろうし……。  ……そういえば俺って母さんたちの元に帰れるんだよな?  「急に寂しくなるとか情けないけど、2回目の異世界転移はさすがに元の世界の大事な人が頭を過るぞ」  けどさ……それでも……。  この世界でグレンシアと幸せになれるなら、俺は恋人を選ぶ。 「まあ、それだけじゃ認めてもらえないんだよなあ。何すれば100年の恋を証明できるんだ?」   「どうして黙っているのですか!」 「おはようございます……?」  翌朝、起床した俺はリビングへ顔を出す。そこでは全員が集まり、グレンシアが声を荒げていた。  珍しいな。何があったんだ? 俺の挨拶なんて誰も聞いていないぞ。  お怒りな王子様をなんとか落ち着かせたいディアドと隼人さんは困り顔で立ち尽くしている。  グレンシアが仲の良いアルを責めるだなんて異常な光景だと思う。  アルは黙るばかりで、ディアドは少ない言葉ながらも必死に息子を庇っている様子だ。宰相とはいえ、王子相手に強くは出られないよな。  同じくらい困った様子の隼人さんが俺に耳打ちをして来た。俺はよく聴く為に身を傾ける。 「……何か隠し事があるのではと、グレンシアがアルを問い詰めています。昨日、アルが直哉さんの腕を掴んだでしょ? その時、直哉さんがアルをじっと見ていた事が気がかりのご様子で、ずっとあの調子なんですよ」 「アルテッドはなんて言ってるんですか?」 「アルは何も喋りません。それがさらに火に油です」  言い終わると同時に隼人さんは溜め息をついた。  アルは俺の秘密を守ってくれているだけだ。でも、グレンシアはそんなアルに不信感を持ってしまったらしい。  あれ……でもさ、どうして俺に聞いてくれないんだ?  婚約者なんだぞ?  隠し事があるなら教えて欲しいって俺に言えばいいだろ、どうして俺に言わないんだよ。  グレンシアからの不信感に、俺はムッとする。 「別にグレンシアには関係ないだろ! アルを虐めるなよ!」  俺はついイラついて、語気強く言い放ってしまった。 「直哉さん……」    その後すぐに後悔をする。グレンシアが悲しそうに俯いたからだ。 「グレンシ……ア」  グレンシアは俺を無視して部屋を出た。はじめての事で俺は戸惑う。ちょっとくらい調子に乗ってもグレンシアはいつも許してくれていたから、あんな悲しそうな顔で無視されるなんて思わなかった。 「直哉」  アルが俺に触れて来る。 『殿下には殿下の想いがある。決めつけるな』  アルの心の声で、俺はハッとした。それはそうだ。今の俺は心の声を聞く事が出来るのに、それもしないで勝手にグレンシアの気持ちを決めつけて怒ってしまった。 「……グレンシアを探してくる」    俺は屋敷の外に出てグレンシアを探した。  んで、近くの森に入ったのがいけなかったんだよな。1人迷子になったぞ……。  むぅとジアンを呼ぶか。 「いや、危険がある訳じゃないしなー!」 「ギギギギ!」 「へ!?」  俺は緑の小鬼、ゴブリンに囲まれる。 「むっ」 「ギイイイ」  むぅを呼ぼうとした所でゴブリンに口を塞がれた。従魔を呼ぶスキルは言葉で発動する。これでは呼べないのだ。  しかし、討伐したはずのゴブリンがこっちに生息してるってのは、どういう事だ!? 雪葉ちゃんが世界を引き千切った拍子にこっちでもゴブリンが生態系に組み込まれたのか? そうじゃなきゃ説明つかないよな!?  何が怖いって、触れているのにゴブリンの心の声が聞こえない。こいつら何も考えていないのか、二足歩行の生き物なのに思考がないってめっちゃ怖いんだが!? 「ギャアァ!」  気が付くと緑の血飛沫が舞う。俺の周りのゴブリンたちは刀で両断された。  地面に尻もちついた状態の俺は冷たい表情をした彼を見上げ、黙る。 「……」 「……」    ――俺を救ってくれたグレンシアは悲しそうに、俺の顔を見つめていた。

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