16 / 19
2024年10〜12月
10月5日 追わないの? 断ち切る 寂寞
1 宵闇に紛れる2つの影。噛み締めた唇。追わないの?と本能が甘く誘う。本当は今すぐにでも駆け出し好きな人を取り戻しにいきたい。でも、不器用な俺は婚約者を素直に愛せなかった。幸せにできなかった。だから、これでいいのだ。未練は今宵、断ち切った。寂寞を胸に、2人の幸いを満点の星空に願った。
2 派手に響いた破裂音。駆け出した背中。それを見送る友人には寂寞感が漂っているのうな気がした。「追わないの?」「君の方が大事だから」重なる唇は柔らかい。断ち切ったはずの友人への想いが溢れる。「返品できないぞ」「いいよ」彼女と破局直後に俺と交際なんて最低だ。でも、それでもいいと思えた。
10月11日 直せない 香水 壊れて
1 友情で繋がった俺たち。その関係に縋っていたのは俺だ。でも、壊れてしまった。俺が壊した。我慢できなくて襲ってしまった。もう直せない。残ったのは、あいつが置き忘れていった香水の瓶だけ。キャップを開ければ、あいつの匂いがする。残量はあと僅か。それはきっと、永遠に残ったままになるだろう。
2 なんてこった…。ジーパンのチャックが壊れてしまった!不器用な俺の手では直せない。「あーあ。これ貸してやるから、家に帰って着替えてきな」隣にいた、よく講義で一緒になる先輩からカーディガンを腰に巻かれる。甘い香水の匂いがするカーディガン。トイレで恋に落ちるって、どうしたんだ、俺⁉︎
10月30日 見上げる 上擦る 充電
1 スマホの充電が切れた。最悪だ。郷土史研究のために登った山。山頂にあった古代の神を祀る祠は俺の眼前で落雷により崩れた。現れた背筋が凍るほど美しい神を畏れ逃げ出したのが数分前。ふと、瞬きした次の瞬間、目の前に躍り出た影。「ひッ」叫びさえ上擦る。見上げるほど大きな黒い影が、俺を覆った。
2 スマホの充電オッケー。頷く俺の隣でワタワタと荷物の最終チェックをしている恋人。数分後、よしと頷いて立ち上がった彼を見上げる。その顔はさっきとは違い、自信と余裕に満ちていた。「思いっきり楽しもうね」それが当たり前のように重ねられた唇。「うん」まだ慣れない俺の返事は上擦っていた。
10月31日 下着 消える ライト
1 表情が見える程度に明るさを落としたライト。仮装衣装も下着もベッドの下に落ちている。だけど、彼の口元から鋭い牙は消えなかった。その理由はすぐにわかった。首筋に牙を突き立てられ、血を啜られる。本物なんだ。快楽に支配されていても彼の正体がわかった。でも怖くない。だって、君が好きだから。
2 我慢できると思っていた。間違いだと気付いたのは、下着も何もかも脱いで体を重ねている最中、彼の首筋に牙を埋めた時だ。灰になって消えてしまいたいと思うのに甘い血を飲みたいと本能が叫ぶ。ライトに照らされた俺は獣だ。グチャグチャの感情に押しつぶされて涙が滲んだ時、彼の手が俺の頭を撫でた。
11月16日 さよなら 握る とびきりの
1 裏切りを決意した時から、最期はそうすると決めていた。「さよなら」裏切りの証拠は左胸にあるポケットの中。彼の幸せを願って銃把を握り、その銃口をこめかみに向ける。彼は必死の形相で手を伸ばしてきた。でもね、もう一緒にはいられない。ごめんね、愛してる。俺はとびきりの笑顔で引き金を引いた。
2 セフレを好きになってしまった。無理、俺の心が持たない。だから別れを告げドアノブを握ったら壁ドンされた。「さよならってなんだよ」セフレといいながらいつも優しい彼が、とびきりの笑顔を浮かべながら怒っている。「えっと?」息を奪うようなキスの後、どれだけ愛されているかを教え込まされた。
11月23日 終電 地面 ドーナツ
1 終電を逃したのは何回目だろう。寂しい財布を手にタクシー乗り場を目指す。街灯に照らされた地面に大きな穴。その輪郭は昼に食べたドーナツみたいで、何も考えずに足を踏み出した。自由落下の先は、鬼の腕。「ずぅっと待っていたよ。俺の愛しい人」激しい頭痛と共に、俺は宿敵の存在を思い出した。
2 小石もない地面を蹴りつける。終電に乗り損ねて最悪の気分だった。でも、俺と同じように終電を逃した彼からドーナツを分けてもらい、少しだけ機嫌が治った。寒空の下、ドーナツを手に2人並んで歩く。白い息と、甘い香り。こういうのも、悪くはない。家がもっと遠かったらと思ったのは、彼には秘密だ。
12月1日 閉じこめる 絡める 断ち切る
1 快楽に染まった体と断続的に上がる嬌声。舌を深く絡め、腕の中に愛しい彼を閉じこめる。こんなに愛でているのに、彼は俺を睨みつけてくる。彼の目から光が消えることはない。爪先からぞくりと這い上がってくる支配欲。憎まれて嬉しいなんて、おかしいね。でも、この狂気を断ち切ることはできない。
2 閉じ込めていた気持ちは断ち切ることができず、不意にこぼれ落ちる。「好きだ」しまったと思って顔を背けると、顎をとられて真正面を向かされた。「俺も好きだよ」蕩ける笑顔。凍っていた体はが一気に熱くなる。指先を絡められ、近づいてきた顔。破裂しそうな心臓を胸に、俺はゆっくり目を閉じた。
12月13日 項垂れる 蔑む 首輪
1 腰まで伸びる、月の光を溶かし込んだかのような銀糸。強引にそれを鷲掴み項垂れた顔を上げさせると、俺を蔑む視線が突き刺さる。「いつになったら俺に従う」「世界が滅んでも、そんな日は来ない」彼の青痣が目立つ片頬が吊り上がり、喉で嗤う声が響く。無骨な鉄の首輪に繋がる鎖さえも、俺を嘲笑った。
2 項垂れる彼の肩を叩く。その頸を隠すのは真っ赤な首輪。「なんでだ」「なんでって言われても」弾む声を隠せない僕を、蔑むように睨んでくる。酷いじゃないか。ゲームで負けた方がメイド服に赤い首輪のコスプレをするって決めたのは彼の方だ。「似合ってるよ」記念にスマホで連写。「やめてくれぇ!」
ともだちにシェアしよう!

