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2025年2〜4月

2月18日 透明 部活 小説 1 料理部なんて部活、俺以外に知ってるやつがいるとは思わなかった。闖入者は毎週金曜日にやってきて、俺が作った菓子を食い、駅までついてくる。その噂が広まり部員が増え、何故かやっかまれて調理道具を隠される。小説の中だけだと思っていた陰湿なイジメが始まった。ああ、透明になれたらいいのに。 2 強制入部の部活動は怠い。仕方なく入った天文部で、透明な肌を持った彼と出会った。小説の主人公のように完璧な彼にも弱点があると気付いたのは、夏休みの遠征時。「僕の気持ち。知ってるでしょ」頬を赤らめた先輩の瞳は星の輝きを反射している。そう、彼の弱点は俺だ。引き寄せた体はとても熱かった。 3月29日 便箋 点滅 哀愁 1 便箋に白濁を散らして彩る。乾いたそれに哀愁を漂わせた愛の言葉を綴れば、きっと憐憫を誘うことだろう。この行動が異常だと警告灯が点滅する。知ってるよ。俺がおかしいってことは。やめられないのは彼を愛しているからだ。いずれ彼の手の中に収まる便箋が羨ましくて、なめらかなそれに頬擦りをした。 2 ポストに入った封筒。宛名を見てすぐに封を切り、便箋を点滅する信号の光に照らして読んでいく。「もうすぐ帰れるよ」これまで哀愁しか込められていなかった手紙に、希望が詰まっていた。嬉しい。「早く会えないかな」そう呟いた俺の背中を、温かい腕が抱き込んだ。「ただいま」その熱に涙が溢れた。 4月1日 裸 手招く どうしてなの 1 羞恥など感じたことがないのだろうか。彼は申し訳程度にかかった毛布で下半身をかけ、裸のまま俺を手招く。「どうしてなんですか」なんで、俺を選んだ?「一晩だけって望んだのは君でしょ」違う。望んだのはこんなんじゃない。愛して愛されて、心を満たしたかったんだ。体だけなんて、そんなの無理だ。 2 「どうしてなの」海外赴任を決めた彼を責める。一言だけでも相談されてたら心に余裕があったはずなのに。「こっちにおいで」優しく、困ったような顔で手招く彼に、風呂上がりで裸のままの俺は吸い寄せられるように近づいた。「3年で戻るから待ってて」宥めるようなキスに、凍った心が溶かされていく。 4月24日 甘ったるい 逃げられない 誘う 1 甘ったるい酒だと思ったときにはもう遅い。「ずぅっと僕を警戒していたのに、残念だったねぇ」奥の間から現れたのは、以前から俺を褥に誘っていた変人だ。宴に誘った友人達は彼に買収されていたのだろう。逃げられないと分かっていても、不敬だとしても、それでもいい。俺はクソ野郎に刃を向けた。 2 甘ったるいプリンのような香りは色欲ではなく食欲を誘う。そのせいで彼とはキス止まりで、逃げられない宿命かと気落ちしたこともあったが、ついに番身も心も結ばれた。でも、体中に付けられた歯形を見てドン引きだ。「ごめん。美味しくてつい」頭を掻く彼に、許しのキスを与えたのは言うまでもない。 4月26日 波 弔い 心臓 1 寄せて返す波は止まらない。弔いの火はすでに消え、彼の魂は一筋の煙とともに天に還った。この戦に希望なんてなかった。どうせなら多くの敵を道連れにしてやろう。そして共に。そう約束したのに、俺の心臓は無意味に脈を打つ。彼がいなければこの命に意味などない。一人生き残ってどうしろというのだ。 2 失恋した心の傷さえ飲み込んでいく波。哀れな心を弔いをすることさえできなかった。それだけ彼の存在はめちゃくちゃで、まるで台風みたいだ。「ほら、行くぞ」日曜日の遊園地はどこもかしこも人だらけ。優しく繋がれた手と手。絡む指先。カッと熱くなる頬。俺は今、本当の意味で心の在処を知った。

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