19 / 19
2025年7月
7月11日 おめでとう 呼吸 電車
1 後ろを通る人の肘が背中に当たった。4徹していたせいでよろめき、体が線路上に躍り出る。電車のけたたましい警告音。最後の呼吸はひび割れたガラスの上に広がった。終わったと思った次の瞬間。「おめでとうございます!貴方は666番目の栄誉ある生贄です!」やたら明るい声は、俺の絶望を運んできた。
2 合格発表の日から、素直におめでとうが言えなかった。見送りの電車を待つ間も、唇は固まったまま動かない。お祝いの言葉も、俺のこと置いていってしまう恨み言も、好きという言葉も。四角い車体がホームに滑り込み、あいつは立ち上がった。そしておもむろに屈み、俺の呼吸を奪った。ずるいじゃねぇか。
7月13日 告白 強ばる 閉じこめる
1 「ずっと好きだって言ってるだろ。返事は?」不良陰陽師のくせに調伏の腕は当代随一。私を一途に口説く姿は、心を動かす分には十分だった。「私が大蛇でも好きか?」私の問いに彼の顔が強ばる。ああ、やはり妖怪と人は交われない。それでも彼が愛おしい。だから、私の巣に連れ帰って閉じこめよう。
2 告白の言い逃げってずるくねぇ?卒業式を狙ってくるとか絶対確信犯だろ。勝手に終わらせんな。「返事聞く前に逃げんな」油断して立ち止まったところを後ろから抱きしめ、腕の中に閉じこめる。強張った体は熱い。「俺も好きだ」桜吹雪が俺たちを隠す。ファーストキスはしょっぱくて甘い味がした。
7月16日 扇情 お姫様 生温い
1 表舞台に出ていなかった第四王子。誰が「お姫様」なんてあだ名をつけた?とんだ暴れ馬ではないか。病弱だという噂は真っ赤な嘘。粗暴で手がつけられないというのが本当の理由だったようだ。痛めつけられても睨みつけてくる姿は扇情的で、こんな生温い拷問では屈しない。俺が直接相手をしてやろう。
2 抱かれる側だけどお姫様扱いはされたくない。付き合うときに宣言されたけど、今日はしょうがないよね。浴衣で楽しんだ夏祭りの帰り。鼻緒が切れた拍子に足を挫いて歩けなくなった彼は、俺にお姫様抱っこされて顔を真っ赤にしている。汗が滲んだ肌は扇情的だ。湿気を含んだ生温い風は俺の熱を煽るだけ。
7月30日 虚しい 呼吸 誘う
1 あの人の面影を探して、でも見つからなくて。どこか似ている人をバーで誘う。こんなことをしたって虚しいだけだとわかっている。それでも止められないのは、好きで好きでどうしようもなくて、諦められないから。甘い言葉が降ってくる。「いいから、早く」呼吸を奪うようなキスをして。俺を壊して。
2 虚しい恋をした。決定的に失恋した俺を慰めてくれるのは、隣の家に住む幼馴染だ。「だから俺にしろって言ってただろ」「うん、そうかも」視線を上げると、顔を真っ赤にした幼馴染がいた。ひゅっと呼吸が止まった。誘う視線を投げれば、彼は両手で顔を覆う。へぇ。何、いつもそんな可愛い顔してたんだ?
ともだちにシェアしよう!

