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第1話 よくある導入と足掻き
「ルーカス!お前をこのパーティーから追放する!」
ドン!と効果音がつく勢いで俺はヤツの鼻先に一枚の書類を突きつける。
艷やかな黒髪が風圧でふわりと舞った。
「アレク?なんだいきなり……この書類は?」
ルーカスは心底わけがわからない、という顔で俺と書類とを見比べている。
「決まってるでしょ。ここにいる全員が署名したあんたの解雇通知書よ!いい加減、無能すぎる回復術師には愛想が尽きたの。これをギルドに提出したらもう二度と会うことはないわね。」
パーティーメンバーで弓使いのマリアがふふん、と鼻で笑った。
「解雇!?そんな、俺だって自分なりに仕事はして……!」
「前回の戦闘でマリアに怪我を負わせたのは誰だ?」
ぐっ、と黙り込むルーカス。
「……でも、すぐに治した」
「お前の初動が遅れたせいで撤退せざるを得なかった。結局回復を待つ間に死人が出た。」
俺は畳み掛けるように言葉を続ける。
「ルーカス。俺には“最強の勇者”としての責務がある。どんなに強い敵だろうが、困っている人がいれば立ち向かわなければならない。
それと同じように、お前の仕事は“仲間に怪我をさせない”ことだ。どんな時も絶対にな。
それすらまともに出来ない、後ろで控えてるだけのお前はこのパーティーのお荷物なんだよ!」
張り詰める空気。
息を呑んで次の展開を待つパーティーメンバー。
青褪めた顔で唇を噛むルーカス。
そして、ダラダラと冷や汗をかく……俺。
『は??え??何言っちゃってんの??俺何言っちゃってんの?馬鹿か?馬鹿なのか??』
……そう。俺は最悪の瞬間に前世の記憶を思い出していた。
しがないサラリーマンとして生きた記憶。
友人もあまりおらず、これといった趣味もなく。彼女いない歴=年齢で、そろそろ魔法が使えるようになるんじゃないか……と若干期待していたらあっけなく過労で死んだ。
そんな社畜の俺が唯一楽しみにしていたネット小説がある。
剣と魔法の世界で主人公が成り上がっていく物語。仲間に裏切られた直後に主人公のチート能力が発覚するので、読んでいてスカッとするのだ。
……気づいてしまった。
ここは小説の世界……しかも目の前にいる“ルーカス”が主人公の小説だ。
さらに言うと俺は“最強の勇者”などではない。
主人公のチート能力に気づきもせず無能扱いし、最後には周囲に見捨てられて死ぬ“ざまあ要員”の脇役だ。
『なんでよりによってコイツなんだよ!!』
俺が転生したアレクというキャラクターは、一言で言えば“クズ”である。
赤い髪と、目尻がキュッと上がった猫のような目が特徴的なイケメンだが、にも関わらず作中では死ぬほど人気がない。
勇者としての責務がなどと偉そうなことをほざいてはいるが、本性はただ目立ちたいだけの薄っぺらい人間。女にだらしがなく、汚い手も平気で使う。
なまじ実力があるだけに化けの皮が剥がれるのが後半で、読者からのヘイトを受けに受けまくって最後はしっかり無様に散るという、清々しいほどの舞台装置キャラなのである。
ちなみに、現時点においてもルーカスは全くもって無能ではない。客観的に見て、彼は一般的な回復術師以上の仕事をしている。
今回ルーカスを追放しようと考えたのは、無理な戦闘続きで高まっている不満を解消するためのアレクの浅知恵だ。
あと、よく見ると自分より顔がいいルーカスの存在が許せなくなった。
『やっぱり馬鹿だコイツ……』
俺はルーカスに書類を突きつけながら涙が出てきた。
あまりにもアレクという男がアホすぎる。その場しのぎに優秀な回復職を解雇して、一体どうやって今後の戦闘を続けるつもりなのか。
なんだか憎しみ通り越して哀れになってきた。
「アレクどうしたの?……え!?泣いてる!?」
「大丈夫か……?なんだか具合が悪そうだが」
パーティーメンバーがギョッとして俺の顔を覗き込んだ。
「アレク……大丈夫か」
ルーカスまで心配そうに声をかけてくれる。
こんな時でも心配してくれるなんて聖人か?
「……って。」
「ん?」
「なーーーーんちゃって!!」
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