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第五話

「亮ちゃん!?」  翌日、俺は蜜に教えられたMISSING ROSENに来ていた。この店にはもう何度か集金に来ていて、今日はアニキに頼んで俺一人で来る事にした。アニキから貰った数万は、この時ちゃんと返した。その内の幾らかは駄賃だと言って結局また俺の手元に返ってきた。  数年前冬の海で最後に会った時とは違い、すっかり面変わりしてしまっていた関に俺は最初は気付けなかった。何度も来ていてもこれでは確かに分からないはずだ。  高級そうな時計に金のネックレス。真っ黒でオタクっぽかった髪型は長さはそのままでも金髪になっており、髪の隙間からは恐らくダイヤであろうピアスが覗く。俺は着ないがスーツも相当なブランド品だ。  ただ俺は気付いていた。その全てが関の稼ぎではなく、蜜の稼ぎで買ったものだと。 「いやあ久し振り。何で此処分かったんだ?」 「こないだ蜜に会ったからそん時」 「蜜に? いつ?」  蜜の名前を聞いた途端、関の顔色が少し変わった。その表情の意図は分からないが、俺が蜜に会ったという事実は気になるらしい。 「いや昨日――だな。集金に行った店に居たから。蜜から聞いてねえの?」  煙草を咥えるとすかさずライターを出して火をつけてくる。流石ホストといったところか。 「なんも。アイツ自分のこと話さねぇから」  それはお前が聞こうとしないからじゃないかという言葉は呑み込んだ。関は昔から受け身なところがあった。自分からは行動をせず、周りが何かをしてくれるのを当たり前として受け入れているところがあるのだ。 「それよりさぁ〜今月ちょっとノルマやばいのよ。亮ちゃん助けてくんない?」  キャバ嬢のように甘い声ですり寄って来られても俺は男だから効かない。まあ関が自分から頼み事をするというのも滅多に無い事だから一度くらいなら受け入れてやっても―― 「いいけど、あんま高いの入れんなよ?」 「ありがとー亮ちゃん大好きっ。五番テーブルドンペリ頂きましたー!」 「って、おい!」  名前しか聞いた事がないがドンペリといえば相当高い酒だ。下っ端の小遣いを舐めないで欲しい。アニキから貰った駄賃にこの時心底感謝をした。  ドンペリコールで店内が賑わう中、肝心な蜜の事も聞けなくなり俺は席をカウンターに移した。そこにいたバーテンは俺に向けてそっと灰皿を出した。 「水城さん、ドンペリありがとうございます」 「あ? あー……別にいいけどよ。関っていつもあんな感じなの?」 「リオさんですか……そうですね、確かにお客様におねだりをしたりというのは多い気がしますけど、それが仕事ですから……」  申し訳なさそうな顔。どうやら関はこのホストクラブでは『リオ』という源氏名を使っているらしい。 「や、そうじゃなくて……結構、予想外に高い酒入れるとか」  伝え方が難しい。あまりみみっちい事ばかりを言っていると小さい男と思われそうだ。 「ああ……」  バーテンは何かを察したように声をあげた。 「お会計の際に金額に驚かれるお客様もたまに」 「あっそ」  そんなあくどい稼ぎ方をしていたら固定客なんて付かないだろう、というのは俺の勝手な思い込みだろうか。関がどういう金の稼ぎ方をしようが、本当のところ俺にはあまり興味が無い。ただ関自身の株を落とすだけだ。  蜜の風俗勤め、関の金稼ぎの荒さに一抹の不安はあるものの、どちらももう立派な大人だ。他人がどうこう口を挟む問題じゃない。 「ありがと、チェック頼むわ」  その日を期に、俺はまた二人に会う事は無くなった――

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