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第六話

「お前もそろそろ盃を貰ってもいい時期だな」  ある時唐突に桂木のアニキが言い出した。盃を受けるということはこの鷹取組の組長である鷹取創と親子の契りを交わすという事だ。それは同時に俺自身に鷹取組の幹部の座が与えられて、桂木のアニキとは本当の意味での義兄弟になる。  俺自身をそこまで評価して持ち上げてくれるアニキには本当に頭が上がらない。  そう俺は、これでもう引き返せなくなる―― 「そういや関とか言ったか? お前の幼なじみ」  ぎくりとした。蜜のことも関のこともあの後佐々経由でアニキには伝わっていたらしい。何故今このタイミングでアニキから関の名前が出るのかは分からないが否定する必要もない。 「アイツ、もうダメだろうな」 「えっ……?」  俺が聞き返すとアニキは「知らないのか」と言いながら咥えた煙草に火をつける。そもそも俺は関の連絡先を知らない。マメに連絡を取り合うほどの親しさでは無かったからだ。あの店にまだ勤めているのなら会おうと思えばいつでも会える。しかし関には別に会いたいとは思わない。  会いたいと言えば蜜だ。蜜もまだあの仕事を続けているのなら会うことなら出来る。 「枕だよ。枕営業してんだお前の幼なじみ」  枕営業とは客と肉体関係を持って客として来続けて貰うという営業方法の一つだ。肉体関係を持った客は一種の恋人のような感覚を持ってしまい、様々な問題を引き起こしてしまうことから多くのホストクラブでは枕営業を禁止している。俺らがホストの用心棒みたいな事をしている理由は殆どが枕営業によるいざこざの仲裁だ。 「でも関ってそんなに下半身人間だったけか?」  ソファに転がってマンガ雑誌を読んでいた佐々が話に割り込んでくる。佐々は高校までの関しか知らないのだ。  垢抜けたといえばそれで終わりなのだろうが、常に虐めの対象となり男女問わずビクビクと人の顔色を伺っていた根暗な関があの煌びやかなミラーボールの下、女相手に歯の浮く甘い言葉を囁いているなんて俺ですら実際に見ても信じられなかったのだから。 「確かに枕自体はあの店でも禁止されてますけど、それで売り上げになってるんなら……」 「『本人の客』ならな」 「あちゃー寝取っちゃってんですか」  佐々の態とらしい態度にそろそろ苛ついてきた。大方同僚ホストの客を巧みに拐かして自分の客にしてしまったのだろう。しかもアニキの口振りからするとそれは一人二人の問題ではない。  確かに関らしいといえばそうかもしれない。甘い言葉を囁いて細い絆を幾つも作るよりは手っ取り早く寝てしまえば太い客になってくれるからだ。同僚の客ならば尚更普段の金遣いから目を付けていたのだろう。頭が良いといえばそうなるが、そういう狡賢いところが虐めの原因になったという事に関はまだ気付けていないらしい。 「まあアイツもいい大人だからトラブル起こすとは思わないんスけどね」  流石に学生時代とは違う。関の小賢しさもアップしていると考えるならば客を寝取ったところでトラブルにならないような根回しはしてあるのだろう。そうであると信じたい。 「まあ無理にでもとは言わねぇが、今度会うことでもあったら言っておいたれや」  まだ半分以上残っている煙草を灰皿へと押し付けて桂木のアニキは背広に腕を通す。俺や佐々だけではない、全くアニキには関係が無いはずの関の事まで気にかけてくれる懐の広い人だ。本音では関が問題を起こさないようにと遠回しに俺から釘を刺しておけという意味も含まれてはいるのだろう。 「うぃっす」  正直なところ、関に会うのは気が重い。関はきっと蜜の真実を知っているはずだからだ。

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