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第四章

 斎が退院し、那由多と綜真も揃ったところで歓迎飲み会を行うと朝のミーティングで言い出したのは四條だった。本来分室のメンバーは飲み会への参加を拒否する権利を持っている。しかし同時に飲み会強制参加という四條からのパワハラも分室内だけでは許可されていた。実際の所四條がパワハラを行使せずとも、四條ファンクラブを自称する詩緒、真香、斎の三人が四條からの誘いを断る訳が無かった。勿論代金は経費として計上され、一銭も支払う必要は無い。 「二人は良いよなあ、酒に強いし。俺だって四條さんと酒を交わして歓談したいよお」  嘆いたのは斎だった。斎は二人に比べると酒に滅法弱い。記憶を失ったり酩酊する事すら無いが、一口飲んだだけで顔が真っ赤になるのは弱いといって差し支えが無いだろう。 「歓談なら酒飲まねぇでも出来んだろ」 「そういえば那由多は酒は強ぇの?」  昼休みを利用しや共有スペースでの雑談。那由多はすっかり分室メンバーに馴染んでおり、物覚えも良いと斎も太鼓判を押していた。やはり三年間営業成績トップは伊達では無かったのだ。 「俺ですか?」  不意に真香から話題を振られた那由多は、コンビニで買った惣菜パンを食べる手を止める。 「俺は強い方だと思いますよぉ。飲み比べだったら負けません」 「それじゃあ俺とお前でどっちが先に潰れるか勝負な。お前が勝ったら好きなモンやるよ」  にやりと笑みを浮かべる詩緒は先日の一件で那由多に対して大分心を開いているようだった。いつものようにゼリー飲料で食事を済ませる詩緒は自らがザルであるという自覚があった。 「雑談中悪いィけど赤松、電話だ。神明商事って言ってるけど分かるか?」  コン、と共有スペースの扉が叩かれたかと思うと扉に寄り掛かる形で綜真が立っていた。綜真は初日以降無理に詩緒へ近付こうとはせず、昼休みの時間ですら詩緒の居る共有スペースに現れる事は無かった。 「あ、ハイありがとうございます御嵩さん、すぐ行きます!」  綜真に呼ばれた那由多は惣菜パンの残りを口の中に押し込んで立ち上がる。 「約束ですからね榊さん! 榊さんも勝ったら何が欲しいか考えといて下さいよー!」 「俺に勝つとか百年早ぇわ」  慌ただしく綜真が保留にしている電話に出る為二階へと向かう那由多。未だ日が浅い那由多と綜真は一つの個室を共有して使っていた。  那由多が部屋を出て行った直後、詩緒は綜真と目が合ったような気がしてぎくりとした。綜真は詩緒ら三名に視線を向けると小さく息を吐いた後何も言わずに部屋を出て行った。 「どうせ榊が勝つだろ? 那由多に何して貰うんだよ」  真香は詩緒のザル具合を斎よりも知っていた。飲み過ぎれば流石に眠ってしまう斎を後目に真香はまだ一度も飲み比べで詩緒に勝てた事は無い。 「何にするかなあ、思い付かねぇんだよなあ……」 「無いなら『俺を抱いて』とかでも良いじゃん」 「ぶっ殺すぞ斎」 「榊の方がヤリ殺されるかもな」  知らぬは本人ばかりなり、まだ気付いていないのかと真香は詩緒の首筋を指でなぞる。 「那由多はお前の事狙ってるぜ?」  真香の指が頬を伝いやがて唇をなぞると、詩緒はその薄い唇の隙間から赤い舌先を覗かせ真香の指先を舐める。真香の指先はそれに乗じて詩緒の口内へと無遠慮に侵入していき、詩緒の口の端から唾液が伝い流れ落ちるまで内部を掻き回す。 「俺らは榊が那由多に抱かれてもお前の事抱けるけど、やっぱ榊は那由多に抱かれたら、俺らに抱かれたくなくなっちゃう?」 「俺が突っ込まれる側前提で言ってんじゃねぇよ。赤松が突っ込んでくれって言う可能性だってあんだろ」 「あーそっちは予想して無かったわー」  真香の指が口内から抜けると詩緒は自らの口元を袖口で拭う。そもそも性行為前提で話を進めている事が誤りではあったが、那由多にもその資質がありそうだという事に詩緒は薄々勘付いていた。

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