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第1話
「源三郎 じいさんが亡くなった」
という電話を従兄弟・設楽 剛毅 からもらったのは、つい昨夜のことだった。
その電話を切った瞬間、設楽 宏実 は指先の震えが止まらなくなった。
訃報にショックを受けたわけではない。もちろんそれなりに悲しかったが、元作曲家の祖父は既に八十歳を超えており、病気で入退院を繰り返していたため、もう長くはないだろうと覚悟はしていた。
そうではなく、宏実の心を乱したのはその後の会話だった。
「あの綾人 も帰ってくるらしいな。さっき電話したらそう言ってたぜ?」
「えっ? そうなのか?」
「ああ。……って、お前知らなかったのか? 連絡取ってねぇの?」
「あー……いや、その……綾人は俺と違って忙しいから、あまりメールや電話しちゃ悪いかな……と」
「そうかぁ? 綾人、寂しがってたぞ。宏実が全然連絡くれないって。たまにはメールくらいしてやればいいじゃん。兄弟なんだからさ」
「ははは……そうかな……」
「ま、とにかく、二日後がじいさんの葬式だ。忘れるなよ」
「お、おう……」
剛毅との会話を終わらせ、宏実はスマホ片手にベッドに寝転がった。
(綾人……帰ってくるのか……)
スマホをいじり、綾人と繋がっているLINEを開く。やりとりは頻繁とは言い難く、一ヶ月に一度ちょっとした現状報告をするかしないかだ。しかもそのメッセージはほとんど綾人から来ている。『次のコンサートで〇〇に行く』とか『〇〇月〇〇日にCDが出るよ』とか『〇〇楽団で今練習をしている』とか。
宏実からメッセージを送ったことはないし、返事も『うん』とか『わかった』の一言で終わらせてしまっている。あまり長々と会話していると、自分のおかしな感情が噴出しそうで怖かったからだ。
でもせっかく十年振りに会えるんだし、何か一言送ろうかな……。
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