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第2話
だけど何を……と考えていたら、急に画面に『明日そっちに帰るからね』というメッセージが入ってきた。思わず心臓が跳ね上がった。間違って変なスタンプを押しそうになった。
なんとか『了解』のスタンプを押し、LINEの画面を閉じる。結局一言は送り損ねてしまった。
(何緊張してんだよ、俺……)
綾人が相手だと思うと、どうも調子が狂ってしまう。離れて過ごしていた期間が長いから、自分の兄だと思えないのだ。感覚的には親戚より遠い赤の他人に近い。
(だってさ……)
宏実は、メモリーに保存されている綾人の写真を探し出した。鍵付きのフォルダにしまっている大切な写真だ。そこには、十九歳の兄がバイオリンを弾いている様子が写っている。十年前、たまたま実家に彼が帰ってきた時、こっそり隠し撮りしたのだ。
(……俺たち、全然似てないし)
これもまた、綾人を実兄と思えない理由のひとつだった。
身長が高く肩幅もある宏実に対し、綾人はほっそりした美形である。容姿もやや中性的で、女性のような柔らかな雰囲気を持っていた。黒々とした目も、上品に通った鼻筋も、控えめな口元も、全てが美しい。顔が小さいせいか、左肩に構えているバイオリンが無駄に大きく見える。やや長めの茶髪が白い首筋にこぼれかかり、不思議な色気を醸し出していた。
そういった謎の色気も、宏実には全くないものだった。
(ヤバいな……次に綾人に会ったら、俺……)
ごまかすようにスマホを放り出し、宏実はベッドに潜り込んだ。
自分の中に巣食っている想いと、一生懸命戦いながら。
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