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6:最強福の神様の癇癪玉!

「そう!俺は神だから!この世の全ての鬼の尻穴を熟知しているのだ!」 「えっ!?」  福の神様の口から放たれた言葉に俺は思わず目を剥いてしまった。 「俺は全知全能。この世の理をその身に宿し生まれた存在だからな?鬼の尻穴について知る事など造作もない!だから、お前のような底辺鬼の尻穴と、その他の鬼の尻穴を比較する事も可能というワケだ」 「は、はぁ。そうなんですね」  それは、とんでもない能力だ。  福の神様の言葉に、俺は心底自分が底辺鬼で良かったと思った。この世の全ての尻穴まで熟知せねばならないとは、神様というのは難儀なモノである。 「おうおう、ようやく泣き止んだな!まったく底辺鬼の分際で、神に汚い泣き顔を見せてくるなど罰当たりにも程がある!」 「……ご、ごめな、さ」 「まぁ、俺は千年に一度の神力を持つ神だからな。器も海のように広い。許してやろう」  福の神様は綺麗な着物の袖口で、ゴシゴシと俺の目元を拭うと満足気に微笑んで見せた。やはり、福の神様は千年に一度のお方なので、やはりその微笑みは美しい……いや、可愛いくていらっしゃる。 「ふくの、かみさま」 「なんだ」 「あの、俺の身まで清めてくださって……ありがとうございました」 「!」  そう、おずおずと俺が礼を言うと福の神様はチラリと顔を反らした。 「べ、別にお前の為ではないっ。お前が汚いままであると、この家の布団がべちゃべちゃになるからな。福の神として、それはとてもじゃないが耐えがたかっただけのこと」  確かに、それもそうである。福の神様はこの家の守り神だ。彼の行動原理は全ておばあさんの為、である。 「身の程を弁えろ!」 「は、はい!」 「……では、俺は今から、ここ地の土地神に挨拶をしてくる。お前はこの家を綺麗に片付けておけ。勝手に外に出るではないぞ」 「はい、承知いたしました」  福の神様のお言葉に、俺は深々と頭を下げる。福の神様の命令は絶対だ。なにせ、俺は出会った頃から彼の言霊で縛られているのだから。  すると、それまで自信満々だった福の神様の口から躊躇いがちな言葉が漏れ聞こえてきた。 「ただ、そうだな。今日は、いつものように、あの……お前の気に入りの、下らん組立人形(フィギュア)は隠さないでいておいてやる」 「へ?」  福の神様は押し入れの脇に転がっている、未だに箱から出されてすらいない組立人形(フィギュア)に目をやると、フンと鼻を鳴らした。  そうだ。いつも、福の神様は、俺が怠けないようにと組立人形(フィギュア)の箱を隠しているのだ。別に、そんな事をしなくとも、俺は福の神様の命を違えるような事はしないのに。 「しかし、決してアレを組み立てて遊ぼうなどとは考えるなよ。お前はこの家の清掃にだけ、邁進しておれ!」 「はい、承知致しました」 「ただ……その、俺は土地神の元へ行く故、昼間のうちにお前がアレを組立てようとも、気付く事はないだろうがな!?」 「は、はい」 「どうだ、嬉しいか!?」  福の神様はズイと顔を近づけてそんな事を言ってくる。何をどう嬉しがればよいのか、俺にはちっとも分からない。分からないのだが、なにせ目の前の福の神様の期待するような目があまりにもキラキラと黒光りをするものだから、頷くより他なかった。 「そうだろう、そうだろう!では、俺は土地神の元へ行ってくる!」 「はい、いってらっしゃいませ」 「決して、あの組立人形を組立てて遊ぶなよ!いいな!?」 「は、はい!」  福の神様の強い言霊が俺の背筋をゾクゾクさせる。  あぁ、本当に俺の体ときたら最近変だ。福の神様の傍に居ると、とても頭がボウッと気持ちの良い感覚になってしまう。  ぴょん、と狭い押し入れから飛び出す福の神様の背中を見送りながら、俺は微かに勃起しかけた自身を隠すように足を閉じた。  本当に、俺の体は最近おかしい。へんてこだ。 「っはぁ、掃除をしないと」  緩く立ち上がりかける男根を押さえつけながら、俺は押し入れの脇に転がる組立人形を押しやり、福の神様の言いつけ通り家の掃除を始めた。 「よし、今日はお風呂のカビを退治するぞ!」  その宣言通り、俺はこの家の水回りにはびこるカビを駆逐してやった。あぁ、すっきりした!  しかし、その夜――。  夕刻になってから帰宅された神様に、俺はとんでもなく叱られてしまった。 「まったく、お前は一体何をやっている!一度も玩具に触れようともせず、一日中水場のカビを無心で退治してからに!お前は本当にダメな底辺鬼だな!?」 「ひんっ!ご、ごめなっ、しゃ!」  福の神様が掃除をしろと言ったのに!なんて、そんな不満など言えっこなかった。福の神様のお怒り……いや、癇癪玉がいつ弾けるかなど、俺には分かりっこないのだから。 「このっ、底辺鬼が!短小が!お前なんか、いつだって追い出せるんだぞ!?」 「っひん!ごめんなさい!ごめんなさいっ!」  そんな風に、これでもかとツノを突かれながら激昂されるモノだから、俺はいよいよ追い出されるのではと覚悟を固めたのに……なのに、どうした事だろう。 「その人形を出せ!今から、お前と俺で国造りを始めるぞ!」 「っへ?」  まさか、俺が福の神様と一緒に組立人形(フィギュア)を組立てる事になるなんて。

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