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1 きっかけ(3年前)①

入社1年目の記憶。 始めてて任された太い得意先からの案件。 教えられたとおりに対応していたら、上司から大目玉を食らった。 「だーかーら!! A社からの案件は、他社と同じスケジュールじゃだめだって教わらなかったか!? 最っっ短の日数でっていう条件で取引してもらってるんだよ!! そんなことも知らねぇで、のこのこ1課に来てんじゃねぇよ! この半年、2課でぬくぬくやってきたんだろうけど、うち(1課)じゃ通用しねぇからな!! ああもう!どうすんだよこれ!!!」 「…申し訳ございません」 そう口では謝りつつも、俺は納得がいかなかった。 A社にそんな条件があるなんて聞いてないと思う。 俺は、半年間、営業2課でイベントや催事の企画をやってきた…、が、1課の同期がこのパワハラ課長のせいで体調を崩し、わずか半年で退社してしまったので移動となった。 1課は主に対企業で製品を売る、ザ・営業部だ。 そのことも、俺にとっては不服だった。 何より、このパワハラ気質な課長が、仕事ができる俺を認めるどころか荒を探していびってくることが何より不服だ。 不貞腐れながら怒られて早10分、未だに開放してもらえない。 「課長、お話し中にすみません。 1番にC商事からお電話です」 タイミングよく、課長に電話が来たようだ。 伝えに来た先輩が、俺に席に戻るよう、ジェスチャーで伝えてきた。 俺は、ぺこりと頭を下げ、席に戻る。 そして、代わりにその先輩が課長の席の前に立つ。 助かった…、と思ったが、よくよく考えればA社はこの先輩から引き継いだお客さんだった。 この先輩がちゃんと教えないから、俺が怒られたじゃないか。 お辞儀をして損をした。 俺は手持無沙汰に引き継いだ資料をぱらぱらと捲る。 俺の直属のこの先輩は、今年37歳になる(当時は34歳)頼りない男だった。 仕事ができる印象はない。 が、持ち前の低姿勢さと器量の良さで客先や先輩上司に可愛がられているタイプの人間だった。 人柄で何とかなっている、俺が一番嫌いなタイプ。 電話を切り終えた課長に先輩が謝る。 「すみません、俺の引継ぎミスで…」 「一番大切な事を教えてないで、引き継いだとは言えないんだよ!」 「本当にすみませんでした。 なんとか仕入先に製造を急いでもらって、今日仕上げてもらうので、それを積んで片瀬と一緒にA社に謝罪をしに行きます」 「今日、納品できるのか?」 「なんとか頼み込んで、今日あげてもらうことになってます」 「それならいいんだが…、気を付けてくれよ」 「はい」 なんとか丸く収まったようだ。 っていうか、これからA社に謝りに行くのか… 1年目でA社くらいの大企業を怒らせるって…、俺ってついていないのかもな… そんな風に考えながら、流し読みしていたA社の資料。 あるメモ書きが目に留まった。 『A社は他社と違って、最短納期で対応する』 紛れもなく、俺の字だ。 先輩からちゃんと教えられていたのに、資料を見返さなかった俺の不手際じゃないか。 俺はさっと血の気が引くのを感じた。

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