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第20話 兄と弟6
2ー6 エリザベス
僕は、秋までには王都の王立学院へと出発することになった。
僕は、農場のことを魔族の中でもリーダー格の青年、ラクスに託すことにした。
ラクスは、真面目な鬼族の青年だ。
僕と似ている黒髪に黒い目をした体格のいい青年で額に角が1本はえているのが特徴だった。
僕は、ラクスに農場での作業と、乳製品を作る作業場のことを教え込んだ。
まあ、だいたいの作業は、僕のゴーレムたちに任せてくれたらいいわけだし、ラクスに頼むのは、主に、魔族の連中の管理だ。
僕も、長期の休みの度に戻るつもりではいたし、それに、僕には、『異世界錬金』があるので、いざとなれば魔法を錬成して転移することも可能だし。
僕が気がかりなのは、エリザベスのことだった。
エリザベスは、僕の手からしかエサを食べないような牛(カーブ)だった。
僕以外でエリザベスが懐いているのは、アーキライトだけだ。
僕は、夕食後に台所のテーブルで僕に難しい農産についての本(僕が読みたいと言った本だ)を解説してくれていたアーキライトに向かってこほん、と咳払いをした。
アーキライトが黙り込んだので、僕は、彼に頭を下げた。
「頼む!一生のお願いだ!」
「何事だ?ルルシア」
アーキライトがいつもと変わらない無表情さできいたので、僕は、説明した。
「僕がいない間、エリザベスのことを頼みたいんだ!」
必死に頼み込んでいる僕にアーキライトは、呆れたような顔をした。
「そんなことか」
「そんなこと、じゃないし!」
僕は、エリザベスちゃんの繊細さや、可愛らしさについて事細かにアーキライトに訴えた。
アーキライトは、無言で耳を傾けていたが、僕に頷いた。
「わかった。あのカーブのことは、私が面倒をみよう」
「ほんと!?」
僕は、思わずアーキライトの手を両手で握りしめた。
「ありがとう!兄さん」
アーキライトがまた固まってしまったので僕は、はっと気づいて握っていた手を離した。
顔が熱い。
僕は、視線をそらすともごもごと呟いた。
「ご、ごめん・・」
「いや、かまわない」
アーキライトが応じると、僕に訊ねた。
「その代わり、毎日、私のために願い事を叶えてくれるか?ルルシア」
僕は、否とは言えなかった。
だって、大切なエリザベスちゃんのためだし!
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