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第45話
『それでも、キミが』は深夜放送にかかわらず話数が増えるほど視聴率が右肩上がりで、SNSでは毎話トレンドに入っていた。
それに比例するように原作も売れているらしく、喜びの悲鳴があちらこちらで飛び交っている。
マサキの件でプチ炎上を起こしたお陰で話題にもなり、視聴者が増えているのかもしれないと田貝は分析していた。
「この調子なら二作目か映画化の話がきそうですね」
「そうだといいな」
また栗山を演じられるかもしれないと想像するとわくわくした。いまなら栗山の気持ちをより理解できているし、もっと深みのある演技ができるかもしれない。
「映画化してアカデミー賞で受賞するかもですよ」
「まさかそんな夢みたいな話」
日本アカデミー賞とは日本映画界の最高の権威と栄誉を持つ賞であり、歴史も長い。そんな格式高い賞に俳優なら誰でも一度は選ばれたいと夢を見る。
スマートフォンを閉じた天根が顔をあげた。
「プレゼントどうしましょうか?」
「予算無制限ってなると難しいよな」
これから始まるクリスマスパーティーのプレゼント選びに天根と老舗デパートに来ていた。
以前ちょっとしたいざこざがあった東のいる出版社が毎年役者やモデル、監督やカメラマン、シナリオライターなどを呼んで盛大なクリスマスパーティーを開催する。いわゆる業界人の社交場だ。
だが一方で著名人が多く集まるので自分の顔を売る絶好の機会でもある。
若手の役者やモデルがカメラマンや監督に愛想を振りまいて印象をつけ、次の現場に呼んでもらえるようにとりつける縄張り争いに今回晶は初めて挑む。
だがプレゼントを持参しゲームの商品にするのが鉄板らしく、予算も無制限のなか印象に残るものかつセンスのいいものを選ばなくてはならない。
センスに自信がないためパーティー前に天根と選びに来たがどれがいいのかさっぱりわからず途方に暮れていた。
デパートを上から順に巡っているが、ピンとくるものがない。
天根はすでに準備してあるらしく、高級時計のブランド名の入った紙袋をぶら下げている。
「困った。どうしよう」
「なんでもいいと思いますけど」
「そうはいかないよ。印象に残さないと」
役者を復帰するからには生半可なことはしたくない。
「じゃあ晶さんの好きなものがいいと思います」
「映画とドラマ」
「それ以外は?」
「家事か料理くらいかな」
「あ、キッチン用品いいじゃないですか。二階ですね。戻りましょう」
フロアマップを素早く確認してエスカレーターで二階に昇った。
そこは調理器具や調味料がインテリアのように飾ってあり、外国製品も多く取り扱っている。見たことのない香辛料が並べられていて、見ているだけでも楽しい。
有名な食器ブランドやコーヒーメーカー、ホットプレートもあり種類の多さに目が回った。
「これなんかいいじゃないですか」
「カップって定番すぎてよく貰うし困るんだよな」
「じゃあお皿は?」
「持って帰ってもらうのにかさばりそうだ」
「なんでも否定する」
「悪い」
「いや、こういうやり取り恋人って感じがしていいです」
こんな人が往来しているところで気軽に「恋人」なんて危険ワードを発言して大丈夫なのか。
慌てて人差し指を立てて口に当てた。
「誰が聞いてるかわからないんだから変なこと言うな」
「誰も気にしてないですよ」
周りを見渡し、誰も近くにいないことにほっと胸を撫で下ろした。
棚の奥まったところで目に惹かれるものがあり、吸い寄せられるようにそばに寄った。
調味料が乗った観覧車だ。調味料の種類も豊富で、手で押すとカラカラ小気味よい音がする。
少しかさばるが個性的だし、料理好きな人に貰われれば喜ばれるかもしれない。
「これいいな」
「晶さんらしいですね。じゃあレジに行きましょうか」
会計とラッピングを済ませ、タクシーを拾って会場へ向かった。
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