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第46話
都内屈指の高級ホテルでパーティーが開かれる。
敷地内に入ると巨大なクリスマスツリーが出迎えてくれ、色鮮やかな電飾が幻想的な空間を作っていた。
タクシーから降りると回転扉の前で待機していた東がにっこりと笑顔を浮かべた。
「こんばんは。今日はご参加いただき、ありがとうございます」
「こちらこそご招待いただき、幸栄です」
「二人一緒だなんて、プライベートでも仲いいんですね」
東の目は笑っておらず、なにかを暴こうと窺っているのがわかる。両親のことを知っていただけに危険人物だと認識しているが、攻撃して分が悪いのはこちらなのでアクションを起こすわけにもいかない。表面上は笑顔を取り繕う。まるで見えない火花を散らしているような緊迫さがあった。
「実はプレゼントを一緒に選んでて、そのまま来たんです」
「そうなんですね!お忙しいなか、ありがとうございます」
こちらですと案内されて宴会場へ向かった。
立食式のパーティー会場にはローストビーフや寿司、サラダ、酢豚など美味しそうな料理から一口大に切られたケーキやプリンなどのデザートが色とりどりに並べられている。だが誰も口にしていない。みんな顔を広めるのに忙しく、ポツンと置かれた料理が寂しそうに見えた。
「こちらうちの編集長と社長です」
「初めまして南雲晶です。今晩は素敵なパーティーに呼んでくださりありがとうございます」
東に付き添われながら一人ずつ挨拶をした。みんな口々にドラマが良かったと言ってくれているが、内心どう思われているかわからない。
面の皮が厚い人ばかりで本音を探るのは早々に諦め、印象が悪くならないよう愛想よく笑顔を振りまいた。
東と別れたあとは自分から声をかけまくり、酒を注いだりつまらない自慢話に相槌を打ったりとプログラミングされたロボットのように機械的に動く。
だが晶とは反対に天根は会場で異彩を放っていた。
人気ナンバーワンの若手イケメン俳優は大物業界人から声をかけられることが多く、次はうちに出てよとありがたい誘いまで受けている。
隣に自分がいるというのにほとんどの人はオマケ程度にしか思われていない。
天根の実力を業界内で認めてもらえて恋人としては嬉しいが、自分はまだ同じステージには到達できていない歯痒さを痛感し、同業者の恋人というのはなかなかに複雑だ。
しばらく一緒に挨拶周りをしていたが、天根が業界一話の長いプロデューサーに捕まってしまった。
目線で「逃げて」と言われたのでありがたくその場を離れてすみの方へ移動する。
昼は食べそびれてしまったので空腹だ。せっかくの料理を食べないのは勿体ないし、三ツ星ホテルのシェフが作った味が気になる。
皿を取って料理を物色していると同じことをしているピンク頭と目が合った。
「あ、晶ちゃん!」
「清も来てたのか」
「うん。晶ちゃんもお腹空いたの?」
「朝からなにも食べてなくて」
「オレは普通に腹減った。母さんがあまり食べるなって言ってたけど、少しくらいいいよね」
「少しだけだぞ」
「これとか美味そう」
「わかる。やっぱ肉だよな」
「じゃあみんな食べてないし、いっぱい食べよう」
「だから少しだけだって」
皿にローストビーフをこれでもかと乗せた清は満面の笑みを浮かべて肩を落とした。相変わらず自由な奴だ。皿にのせてしまった手前戻すわけにもいかず、一口食べる。
噛まなくても肉がトロっと溶け、甘じょっぱいソースと肉汁が絡み合って確かに美味しい。
「ご飯と一緒に食べたくなるな」
「確かに。白米あるかな」
「こんなところであるわけないだろ」
「それもそっか」
二人でクスクス笑っていると強い視線を感じた。
顔を上げると天根がこちらをじっと見つめている。鋭利な刃物を向けられているようにひりひりと刺す。その鋭さが怖い。
視線を皿に戻したが、天根の視線が気になってしまい肉の味がわからなくなってしまった。
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