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第14話 玩具
※拷問ではありませんが、相手を弱らせるための媚薬を使った描写があります。暴力はありませんが苦手な方はご注意ください。
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後退し、窓のない壁に背中をぶつける。鈍痛が走るも構っていられない。なんせ鍵を開けて紫髪が入ってきたのだ。牢屋に。
スミの歯がカチカチと鳴る。猛獣と同じ檻に放り込まれた気分だ。
「そんな怯えないでよ。怪我はさせないって。大人しくしていたらね?」
この男が浮かべる笑みが、猛烈に気持ち悪い。
相手の笑顔が歪んで見えるほど、スミは恐れていた。
胸ぐらを掴まれ、引き倒され簡単に組み敷かれる。冷たい石の感触に、固まっている場合ではないと気を奮い立たせた。
「どけ!」
裏返った声で叫び、あらん限りの力を込め押しのけ、または拳を振るうが、大きな身体はビクともしない。寝そべった虎の下で、仔兎がバタついているようなものだ。
紫髪はそっと涙を拭う。
「あ、だめだ。非力すぎて涙が出てきた。こんなに弱いのに毒も鱗も持っていないとは。悲しいね」
「何をする気だ……」
なんとなく理解しているが、認めたくなかった。洗うって言っていたし、水場にでも連れていかれるのだろう。きっとそうだ! 外に出られれば逃げ出せる好機があるかもしれない。
ヴァンリは長い髪を邪魔くさそうに払う。ふわりと和花の香りがした。
スミのかすかな期待を踏みにじるように、小豆色の瞳を細める。
「面白い薬を手に入れたんだけどこの前、玩具(奴隷)を使い切っちゃって。だから君(新しい玩具)が手に入って嬉しいよ」
言葉の端々から寒気がする。
馬乗りになったまま、ヴァンリは細長い箱を取り出す。拘束されているわけでもない相手がいるというのに、この余裕。衣兎族ごとき、拘束するまでもないといいたいのか。
無意識に奥歯を噛みしめる。
「世の中にはいろんなヒトがいてね、その中にはただ身体を繋げるだけじゃ満足できない者もいるんだって」
なにか、ひどく恐ろしいことを言っている気がする。
かぱっと箱の蓋を開く。中に入っていたのは一本の針。拷問用でなく、医療用のものであると信じたい。
「そうしたヒトは身体を淫らにする作用のある薬を使うんだって。夢があるね」
「その……針は?」
「いま言った薬が塗ってある針。大丈夫大丈夫。怖くないよ?」
十五センチほどの針を握ると、スミのへその下に突き立てた。
「ッ!」
ピリッとした痛みが走る。
すぐに抜かれたが、衝撃が消えない。
「血は出てないな……。よしよし。流石有名な薬師が作っただけはある」
ヴァンリは針の先を確認すると、用済みと言わんばかりにポイ捨てした。
「おい……。洗って競売にかけるんじゃ、なかったのか?」
声が震えている。
「ん? ああ。それはもちろん。でも今の君、元気いっぱいでしょ? 元気だと逃げたり暴れたり面倒だから。体力を減らしておこうと思って。そうしないと洗浄担当が大変でしょ? 単純に動かなくなるまで殴っても良いけど、衣兎って弱いから。死なせちゃったらいけない。これが一番いいかなって」
スミは必死に首を横に振る。
「いや、体力を減らしたいだけなら、もっといい方法があるはずだ」
「うーん? そうだけど俺が楽しむのも大事だし?」
こいつ死ねばいいと本気で思った。
「ん……」
そうこうしていると、ぞわぞわした寒気のようなものが湧き上がってくる。全身を小さな虫が這っているような。あまりの気持ち悪さに身を捩って払いのけたいのに、上に乗っている男が邪魔だ。
「あっ……なんだよ……これ」
「さっき言ったと思うけど」
ヴァンリは退屈そうに見下ろしてくる。
「まあ最初は、慣れるまでは気持ち悪いみたいだけど、平気平気。すぐに気持ち良くなってくるよ。ライムちゃんでも試したし」
(誰だよ! ……あの三つ編みか。仲間じゃないのか?)
仲間を実験台に出来るあたり、頭のネジがいくつも飛んでいそうだ。
「さて。君は毒や薬品に耐性はなさそうだ。すぐに体力も尽きるでしょ」
スミの上からのけたヴァンリが、きれいでもない敷物に腰を下ろす。
「……この」
漬物石が離れたことで自由を取り戻す。
牢屋の戸は開いたままだ。自分がいるから戸を閉める必要もないと余裕が伝わってくる。さっきから舐め腐ってくれる。
逆に牢屋に閉じ込めてやると走り出そうとしたが、それどころではなくなった。座っているのがやっとのスミは自身を抱きしめるように両肩を掴む。
虫の足が這う感触が消えないのだ。それも時間が経つごとに強くなっていく。
耳や首といった敏感な個所。胸や太ももと触られたことがない部位。足の裏までくすぐられているようで。
全身を掻きむしりたくて、爪を立てたくてたまらない。
「……んっ……んんっ」
漏れる吐息が熱っぽくなる。
次第にそれはかゆみなのか快楽なのか分からなくなっていく。
ヴァンリがわざとらしく開け放たれた戸に視線をやる。
「あれー? 逃げないの? もしかしてこの牢屋が気に入っちゃった? ふふっ」
つまらない劇でも見ているような目つき。嘲るような笑い声。カッと頭が熱くなる。
だがこの時ばかりは、怒りが力に変わることはなかった。怒りで早くなった血流が、薬を全身に届けてしまう。
いつの間にか一物が硬く張りつめていた。
「ううっ。はあ……あ、あぁ」
熱い。苦しい。シャツの上から皮膚を引っ掻くが、その程度ではどうしようもなくなっていた。無数の手で、指で、身体をまさぐられているよう。
「はあっ……はあ。ああっ、あっ……」
石の床に倒れ込む。
荒い息の間に、青い目が欠伸をしているヴァンリを一瞥する。まさかこいつの前で自慰をするわけにもいかず、下半身は辛くなるばかりだ。
ビクビクと身体が跳ねる。
「く……あっ」
抜くことが出来ないもどかしさに、金の混じった黒髪を振り乱す。
「苦しそうな顔してるけど、気持ちいいんでしょ? ライムちゃんも最初は強がってたけど、最後はトロトロになってたよ。……遊んでいたら何故かラブちゃんに蹴られたよね。俺がね」
退屈になったのかどうでもいい独り言を言い始める。だがスミにそんなものを聞いて相槌を打っている余裕はない。歯を喰いしばり、それでも牢から出ようと腕の力だけで這いずる。
ヴァンリはそんな獲物の足首を、伸ばした片手で捕まえる。
「っ……」
「そんな嫌な奴に触れられた、みたいな顔しないでよ。そそられるなぁもう」
襟首を掴まれたと思うと、とんでもない力で引き寄せられた。乱暴なやり方に、ニケの宿付近で遭遇した狼の兄ちゃんを思い出す。あのヒトまだ優しい方だったんだなと、そんな場合でないのに笑ってしまう。
「なに笑ってるの? やっぱどこか気持ち悪いんだよなぁ、君。……というか、俺と遊んでいる時に他の男のこと考えないでよ。ちょっとムカつくな」
「勝手に、ムカついてろ……。紫野郎」
「む、紫野郎?」
強がってみせたものの、膝の上に座らされ、後ろから伸びてきた腕でがっちりホールドされてしまう。
「生意気だなぁ。衣兎族って体小さくてかわいいのに、気が強いよね~。でも俺は気の強い子、好きだよ? 虐めたくなっちゃう」
スミを押さえていない方の手が、腹を撫でてくる。
「っ……ふう、ん」
「お腹弱いの? 震えちゃって」
耳が頭上にあるおかげで、こいつの声を間近で聞かなくて済むのが唯一の幸いか。しかしそれがどれほどの慰めになろうか。
「スミの気持ちいいとこ教えてよ? そうしたら、そこばかり触ってあげるよ?」
「ひ、あ……」
布越しにへそを引っ掻かれ、唾液に濡れた舌を晒してしまう。長い二本指が、間髪入れずに口に突っ込んできた。
「ンぐぅ……!」
「わあ。口の中あったかい。俺の手、冷たいでしょ? ごめんな~? 俺、身体温まるの時間かかるんだよ。そのせいか戦闘になっても最高のパフォーマンスがすぐに出来なくてさ。だから俺には仲間が必要なんだよね」
何の話だどうでもいいわ、と言い返すことも出来ないのが悔しい。
舌の表面をなぞられる。
ゾゾゾッと身体が震える。
「ね? 結構な弱点抱えてるんだよ。俺やばくない? 可哀そうでしょ? 慰めてほしいわ~」
「ぐっ……ん、あ……」
指がたっぷり唾液を絡めとるとようやく解放される。指と口の間を、唾液の糸が伸びる。
「ふふっ。そろそろズボンが窮屈なんじゃない? 抜いてあげようか?」
おぞましいことを言われ、反射的に首を振る。褐色の肌を飾る真珠のような汗が、飛び散った。
ヴァンリは楽しそうに笑う。
「ここを触ってほしくてしょうがないんでしょ?」
ズボンの上から先端をツンと突かれ、座ったまま腰を揺らしてしまう。
「ゃあ……触っ」
「でも残念。俺いま誰かを抱きたい気分じゃないんだよね~」
ぱっと指を離され、下唇をきつく噛む。
刺激が欲しい。もうこいつに見られていようが、構わない。抜いて、この熱を解き放ちたい。
両手を引き抜こうとするも、がっちり抑えられているため動かせない。
「ああ……は、あ、あ……」
「どう? もう体力無くなってきたっぽい?」
そこから先は、あまり覚えていない。
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