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第50話

 いわゆる正常位でまぐわう形に腰を抱え込まれた。昨秋来、荒淫を強いられるうちに、こじ開けられるさいに付き物の痛みに多少は免疫ができた。とはいえ、あくまでだ。  荒ぶるそれが、いざ襞をかき分けにかかれば、灼熱の塊が攻め入ってくるような衝撃に秘花が軋めく。 「ぅ、あああっ!」  のたうち、だが巨軀に組み敷かれている。雪の重みでたわんでしまった細枝の図、も同然で、黒い瞳に涙の膜が張る。  しがみつくものを求めて(くう)を搔いた手が、つと握り取られた。いざなわれた先は、獅子族の中でも高貴な血筋の証したる、たてがみ。  志木は片っ端からむしった。肉体と精神を諸共に(けが)される、という屈辱を繰り返し味わわされてきた。その苦痛の万分の一でも熨斗(のし)をつけて返してやる。  ちぎれた毛がはらはらと舞う。ずぶり、ずぶりと花筒を占領してくるなかで、ある種、厳粛なものを漂わせる顔が大写しになった。  よけそこねて、罵声とひとまとめに唇を盗まれた。それは領海侵犯に等しい所業だ。わざと結び目をゆるめて舌をおびき寄せ、挿し込まれたところに嚙みついた。  氷と炎のように、どだい相容れない関係にふさわしい。(あるじ)と性奴が初めて交わしたくちづけは、血の味をまとう。 「この、じゃじゃ馬め」  切っ先が(さね)をすりあげた拍子に、ペニスが跳ね踊った。 「まだ、奪い足りないのか……ん、あ!」  そう、アルフォンソは悪びれた色もなく強奪してのける。将来の夢を思い描く自由を。スマートフォンを片手に気ままにすごす夜を。  そしてキスをする、してもらう相手は恋人限定という、ささやかだが譲れない線を。 「奪うとは心外である。惜しみなく与えてやっているではないか。それ、この通り」 「ぅ、あっ、あああー……っ!」  最奥の、さらなる深みをえぐられて、隅なく〝アルフォンソ・デュモリー〟と署名が記される。鎖で雁字搦めにするように、猛りを軸に分かちがたくつながれていてさえ、ふたりの間には堅牢きわまりない壁がそびえ立つ。  志木は腰を揺すりあげて煽った。愾敵心(てきがいしん)が薄れるにしたがい愛情が芽生えて「めでたし、めでたし」という陳腐な結末なんかクソ食らえ。  たとえ……そう、たとえ獣人の世界とヒトの世界を結ぶ通路が完成しても、八つ裂きにしてやりたいこの男が、おれの足下にひれ伏して赦しを請わないかぎりは、ここに留まる。  たおやかに柳が枝垂れて泉水をくすぐった。数奇な運命をたどって二回目の秋が、嬌声とともに深まっていく。     ──了──

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