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第49話

 凍りつく。石膏で塗り固められたように、完全に。に分け入ったやわらかいもののは、まさか舌……?   志木は、おっかなびっくり視線をずらした。そして息を呑む。ありえない、たとえ宇宙人と外交関係を結ぶことがあったとしても、それ以上にありえない光景が眼下で繰り広げられている。  かしずく、へいこらする、おもねる──等々の真逆にある男が、事もあろうに玉門を舐めほどく? 白昼夢を見ているのだろうか。 「……う、嘘だろ」  にゅるにゅると舌が出入りするたび淫靡な水音が高まり、低まる。慈雨が降りそそいだように内壁が嬉々として蕩けていく反面、妖しい旋律は毒だ。単に嬲られるのとは別の種類の恥辱を受ける。  志木はなりふりかまわず、ずりあがった。 「やめ……やめろぉ!」 「爪を剝ぐ、歯を叩きつぶす。肉体を痛めつけるのはたやすい。だが、おまえをより、わたしから離れがたくする効果をあげる方法は〝アルフォンソ〟・デュモリー〟と精神に刻みつけることだ」 「う……ぁ」  舌が浅く、深く沈む。ひとひら、ひとひら(ほと)びるにつれて、もどかしさをない交ぜの快感が全身を蝕んでいく。なまくら刀で(もっ)てプライドを削り取られるようで、なのに秘道が甘やかにひくつくのを止められない。 「しつっこい……!」  やたら固い瓶の蓋を開けるように、力任せにいちどは頭を引きはがしても、元通り舐め散らかされるなかで思う。悦楽という武器を用いて籠絡する戦法は、おれの(こころ)に癒えがたい傷を残す、という読みはビンゴだ。  策士、と皮肉ってやればよいのか、泉に突き落としてゲラゲラ嗤ってやる、正解はどっちだ? 「悪態をついてばかりで可愛げの欠けらもない、おまえに愛着が湧くなど不条理にすぎる。もしやヒトという種族は標的を惑わす妖術を使うのか」 「な、わけあるかよ……あっ!」  したたり落ちた蜜が、へそにそそぎ込む刺激にさえ感じてしまう。  かたや舌を這い進めるにともなって、獲物の腹を嚙み裂いて臓物を貪り食らっていた祖先の血が騒ぐとみえる。(こわ)い毛が急速に、びっしりと生えそろっていく。たてがみ状に首筋を覆うころには、イチモツは獰猛なまでの勃ちっぷりで照り輝いていた。  花芯にしても咲き匂い、ねだりがましく鮮紅色に華やいださまを覗かせる。かと思えば、きゅっと窄まって焦らしにかかる。 「かつてない興奮を味わっているがゆえ突き破るやもしれぬ。覚悟はよいか」  と、言わずもがなを並べるのに対して不敵に笑ってみせた。その実、心臓が破裂しそうなくらいびくついていた。だって、内腿をかすめるそれは、ふだんの倍増しにずっしりくる……。

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