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第1話

本社のリフレッシュルームは昼休みになると、社員たちの食事スペースとして賑わう。 俺、芳賀大和(ほうが やまと)が顔を出すときも、決まって同期とここで昼食をとることが多い。 勤務しているのは、東京の東、ザ中小企業の不動産会社。 入社して2ヶ月、部署に配属されて1ヶ月。 仕事にはだいぶ慣れてきた。 俺が配属されたのは銀座オフィスの法人営業部。 一般的には不動産会社の花形部署だが、社長肝いりは開発事業部。 面接時から口を開けば開発事業部のことばかり。 俺以外の同期9名は全員開発事業部に配属されると期待していたが、定員はたったの2名。 皆衝撃をうけていた。 「芳賀くん、今日来てたの! ななせちゃんにも教えてあげなくちゃ」 そう明るく話しかけてきたのは、同期の星愛莉(ほし らら)だ。 彼女は管理部の人事グループに配属されていて、同期の中でもまとめ役的存在。 軽やかに話す彼女を見て、俺は笑みを作る。 「ななせちゃん、今日外出なんだって。お弁当の写真だけほしいって。芳賀くん、撮っていい?」 「…推しが食べてるもの気になるよね」 仏木雪乃(ぶつき ゆきの)がそうつぶやいた。 仏木は開発二部に配属された、おっとりした性格の女性。 そんな彼女を見て、海藤修至が笑いながらツッコミを入れる。 「俺も同じ弁当食ってるけど?」 海藤修至(かいどう しゅうじ)はビル事業部に配属された、彼女ができたばかりで浮かれている男だ。 仏木が俺と海藤を交互に見る。 「…全然違ってみえるから不思議」 「おいっ。クイズどっちが芳賀くんの弁当でしょうかってしてみれば」 「…ななせちゃん、怒ると怖いよ」 「怖いよ~ 海藤くん泣かされるよ~」 「あ~そ~ですか~ 彼女いるから寂しくないし」 「…3ヶ月で別れる人多いよ」 「不吉なこというなー!」 「ゆきちゃん、久住くんはー?」 星が俺の弁当の写真を撮りながら、仏木に尋ねる。 「…久住くんは宇井くんと電話中。一時間間以上話してると思う」 「えっ! 勤務時間にかかってきたの?」 「…そう。社用スマホに」 久住壮真(くずみ そうま)は開発一部に配属。 面倒見がいい性格とみせかけ、短気な一面がある面倒くさい性格だ。 仏木が言った「宇井くん」の名前に、そんなヤツも同期にいたなと思った。 宇井愛央(うい あお)、彼は池袋の住宅販売部に配属されているが、俺にとっては特に印象がない。 同期の飲み会でも、彼と話した記憶はなかった。 本社に顔を出した時も、特に話題に出てくることはない。 「昨日のアレの続き?」 「…たぶん」 海藤はため息を吐いた。 「勘弁だよな。メッセージの通知音が鳴りやまないから焦った。彼女のメッセージが埋もれるんだよ。なぜグループメッセージで喧嘩する? 二人でやってくれよな」 「ねえー! 宅建の宿題やろうと思ったのに気になってできなかった」 星が大きく頷き同意する。 俺はグループメッセージの通知を切っているから気づかなかった。 気になり、同期グループチャットを開くと、そこには宇井と久住のメッセージがずらりと並んでいた。 まるでカップルが喧嘩でもしているかのようなやり取り。 宇井が久住に対して、デザートビュッフェに友達と行ったことを報告されなかったことで怒っているらしい。 入社してまだ2ヶ月しか経っていないのに、そんなに久住のことが好きになれるのか。 電流が走った。 ……か、可愛いじゃないか! 心の中でそう叫んでいた。 箸から肉団子が転がり落ちるのも気づかないほど、俺の頭の中は宇井でいっぱいになっていた。 宇井って、一体どんなやつなんだ? その瞬間、俺は彼に強く興味を持った。

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