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第2話
「芳賀くん、7月の同期会のお店、ここにしようと思うんだけど、どう?」
星はスマホを俺にむけた。
食べる手を止め、視線を移した画面にはおしゃれなイタリアン居酒屋が映っている。
「もう7月の話? 今月の同期会も終わってないのに、早いな」
「ここ、人気店なんだって。1ヶ月以上前に予約しないと取れないの」
「雰囲気良さそうだね」
「でしょ? ななせちゃんが見つけてね、芳賀くんにはイタリアンが似合うって」
市場ななせ(いちば ななせ)。
住宅販売部に配属された同期で、俺を『推し』にしている。
今までも女性から好意を向けられることはあったが、『推し』のポジションは初めてだ。
特に何かを求められるということはないので、ありがたいことだと思うようにしている。
「ここ、絶対いいよな!」
と、海藤が話に入ってくる。
「お前、デートに使う気だろ」
「バレた?」
「海藤のデートの下見がてらこの店で決まりだね」
「ありがとう、芳賀~!」
「海藤くんのおごり?」
「勘弁してくれよ~」
そんな軽口をたたき合いながら、次の同期会の計画が進んでいく。
昼休みが半分過ぎたころ、ようやく久住がやってきた。
「お疲れ、顔色悪いよ」
星が心配そうに言う。
確かに、久住は目の下にクマができていて、疲れ果てた様子だ。
宇井と電話していたというのが原因だろうか。
「俺が辞めることになったら、アイツのせいだ」
そう言って、彼はうんざりした様子を見せた。宇井に懐かれすぎて疲れているのか。
その懐かれ方がどんなものか、俺は逆に気になって仕方がない。
「久住、愚痴ならいくらでも聞くよ。飲みに行こうか」
「芳賀……ありがとな」
こうして、夜に二人で居酒屋に繰り出すことになった。
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