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第3話
居酒屋で、ビールが運ばれてくる。
久住は一杯目を飲み干して、早くも二杯目に手をつけた。
「個人のスマホ無視してたら、社用スマホにまでかけてきてさ。一応仕事かと思うじゃんか」
「そうだね」
「大学の友達と遊んだことにまで文句言われるんだ。アイツ、同じ大学じゃないのに、なんでそんなことで怒るんだ。誘わないのが当たり前だろ?」
久住は怒りに満ちた声で続けた。
俺はビールのおかわりを注文しながら、黙って彼の話を聞く。
「俺が誰と遊ぼうが自由だろ? 何で全部アイツに報告しなきゃならないんだ!」
「いつからそんなに懐かれたの?」
「たぶん、研修のときだな。A班とB班に分かれただろ? そんとき一緒だったからだと思う」
研修は5人ずつの班で行われた。
俺はB班、久住と宇井はA班だった。
「でも、他にも海藤や星さん、時舘さんもいたんだぜ? なんで俺なんだよ……あぁ、アイドル好きって共通点もあるかもな。けどカノンちゃんに罪はない」
「アイドルか……」
アイドル好きな顔をしていると内心思う。
久住は頭を抱えながら、さらに続けた。
「他の4人には普通にしてるけど、時々そっけないんだよ。時舘さんが言うには、宇井は黒猫みたいだってさ」
黒猫か。
猫と言えば、警戒心が強くて気まぐれ。
でも、一度心を許すと甘えてくる。
宇井のそんな一面が垣間見える気がした。
「俺から言わせりゃ、地雷だよ。地雷同期!」
久住はそう言いながら、新しく運ばれてきたビールを一気に煽った。
「星さんたちと富士山に行く計画も、宇井のせいで流れちまったんだ。アイツのせいで、俺はどんどん孤立していく気がする」
「そりゃ、不安だよな」
久住は頭を抱え、机に伏せる。
目の前で悩んでいる久住より、宇井のことばかり気になる。
宇井は周りがどう思おうと気にしていないのかもしれない。
自分の気持ちに素直に行動しているだけなのだろう。
彼は久住を独占したいのだろうか?
どうして、久住なのか?
それが知りたい。
宇井が久住を独占したいほどに想う気持ちが、可愛く思えて仕方がなかった。
宇井って、やっぱり可愛い。
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