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第7話
「宇井、待って!」
「ほ、放っとけ」
「放っとけるわけないだろ。一緒にいたいんだ」
「……う、うるさい」
宇井は泣いていた。
その姿を見て、衝動的に彼を抱きしめる。
「なっ……!」
「泣いてもいいよ。これなら誰にも気づかれないから」
「……な、泣くかよ!」
そう言いながらも、宇井は肩を震わせて泣き出した。
周りに人が少ない場所を探し、俺たちは桜田公園のベンチに腰掛けた。
宇井は泣き止むまで時間がかかったが、少しずつ落ち着いてきた様子だった。
「落ち着いた?」
ペットボトルの水を差し出すと、彼はそれを受け取り、小さく頷いた。
「宇井も、ちゃんと言えばよかったんだよ。久住に、自分が抱えてること、全部」
「……俺が悪いの、わかってる」
宇井は俯きながら話し始めた。
「俺、一人だと不安なんだ。子供の頃から姉ちゃんにくっついてて、姉ちゃんの次は従姉妹のサエちゃん、サエちゃんの次は義母さん……ずっと誰かに頼ってた。一人になるのが怖くてさ」
「でも、どうして久住だったの? A班には星さんも時舘さんもいたのに」
俺は、宇井が久住を選んだ理由を知りたかった。
今まで宇井が頼ってきたのは女性ばかりだったから、彼がなぜ久住を選んだのか、その理由が気になった。
「……女の子とは大学のときに色々あってさ、姉ちゃんたちにも迷惑かけた。姉ちゃんたちからも『女の子はダメ』って言われて、それで……最初に声かけてくれたのが久住だったんだよ。好きなアイドルも同じだったし」
「それだけ?」
「そーだよ。他に何があんだ」
宇井の返答に、肩透かしを食らったような気分だった。
俺ではダメだと言われたあの言葉には、あまり深い意味がなかったのかもしれない。
「アイドル、誰が好きなの?」
「どーせお前、知らないって」
「いいから教えてよ」
「……カノン・メロディ」
「え? ゆるキャラ?」
「違うっ!」
俺はスマホでその名前を検索した。
ウサギの耳と尻尾をつけた、可愛いを誇張した女の子だ。
人気うさぎキャラを模したようにみえる。
「へえ〜、宇井はこういう子が好きなんだ~」
「……うるさい」
「ライブとか行くの? 久住と行った?」
「たまに。久住とは行く約束してたけど……」
「じゃあ、俺と行こうよ」
「な、なんでお前と!? 意味わかんないだろ」
「宇井が好きなもの、俺も共有したいんだよ」
「……お前とは行かない」
彼の拒否にも、俺は微笑んだ。
照れてる。
可愛い。
宇井は俯き、ペットボトルを握りしめながら、言葉を絞り出した。
「俺、謝りたいんだ。久住にも、みんなにも。……でもさ、ちょっと怖い。うまく言葉が出るかわからないし……」
「テキストで送るのはどう? そのほうが、宇井も素直な気持ちを伝えやすいんじゃない?」
「……それ、ありかな?」
「ありだろう? グループチャットでいいと思うよ」
「送る前にさ、見てくれる? 変なとこないかとか」
「もちろんだよ」
宇井はほっとしたように、小さく笑った。
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