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第9話
5歳上の彼女と付き合って二年。
彼女に不満はなかった。今まで付き合ってきた彼女たちも、こんな感じだったし、現実の恋愛なんてこんなものだろうと思っていた。
今まではーー。
「仕事、慣れた?」
「うん、まあね」
買い物に疲れた彼女に付き合い、カフェで休憩している。
「不動産業界、今プチバブルなんでしょ? 何か恩恵ある?」
「うちは中小だから、そんなに感じないかな」
「大和なら、大手に就職できたのに。これから経験積んで大手に転職するのもてよ。私、サポートするから」
「ありがとう」
人材会社で働いている彼女は事あるごとに、転職を勧めてくる。
就活のときも、俺が大手企業を目指さないことに不満を抱えていた。
俺は、彼女の気持ちに気づいていたが、見ないふりをした。
そんな彼女の会話中、再びメッセージ通知音が鳴る。
「通知音、設定してるのね。珍しい」
「社会人になってから、気づかないと困る連絡も増えたからね」
「大人になったのね。でも、スマホばかり見てるの、気づいてる? 久しぶりのデートだから、スマホ預かっちゃおうかな」
彼女は冗談ぽく笑ったが、その言葉には圧を感じた。
俺はため息を吐く。
「冗談よ。あ、今日泊まりに行くからね。夕飯作ってあげる。何が食べたい?」
「大丈夫だよ。明日仕事でしょ?」
「遠慮しないの。自炊してないんでしょ? コンビニ弁当ばっかりじゃ、栄養が足りないよ」
彼女は押しが強い。
そして、何かと世話を焼きたがる。
彼女にとって俺は年下の彼氏。
それが彼女と俺の関係性だ。
「ありがとう」
そう言いながらも、どこか息苦しさを感じる。初めて彼女ができたのは高校1年の時。
相手は大学生だった。
それからずっと、年上に好かれてきた。
三人兄弟の三男である俺は、家族には末っ子としての自分を、恋人には年下の彼氏としての自分を、求められる通りに演じてきた。それが楽だったからだ。
一人暮らしを始めて家族から解放されたら、窮屈さを感じていたことに気がついた。
彼女といると解放されたはずなのに、いつの間にかまた窮屈さを感じている自分がいる。
俺はふと、鳴らないスマホに視線を落とした。
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