10 / 45

第9話

5歳上の彼女と付き合って二年。 彼女に不満はなかった。今まで付き合ってきた彼女たちも、こんな感じだったし、現実の恋愛なんてこんなものだろうと思っていた。 今まではーー。 「仕事、慣れた?」 「うん、まあね」 買い物に疲れた彼女に付き合い、カフェで休憩している。 「不動産業界、今プチバブルなんでしょ? 何か恩恵ある?」 「うちは中小だから、そんなに感じないかな」 「大和なら、大手に就職できたのに。これから経験積んで大手に転職するのもてよ。私、サポートするから」 「ありがとう」 人材会社で働いている彼女は事あるごとに、転職を勧めてくる。 就活のときも、俺が大手企業を目指さないことに不満を抱えていた。 俺は、彼女の気持ちに気づいていたが、見ないふりをした。 そんな彼女の会話中、再びメッセージ通知音が鳴る。 「通知音、設定してるのね。珍しい」 「社会人になってから、気づかないと困る連絡も増えたからね」 「大人になったのね。でも、スマホばかり見てるの、気づいてる? 久しぶりのデートだから、スマホ預かっちゃおうかな」 彼女は冗談ぽく笑ったが、その言葉には圧を感じた。 俺はため息を吐く。 「冗談よ。あ、今日泊まりに行くからね。夕飯作ってあげる。何が食べたい?」 「大丈夫だよ。明日仕事でしょ?」 「遠慮しないの。自炊してないんでしょ? コンビニ弁当ばっかりじゃ、栄養が足りないよ」 彼女は押しが強い。 そして、何かと世話を焼きたがる。 彼女にとって俺は年下の彼氏。 それが彼女と俺の関係性だ。 「ありがとう」 そう言いながらも、どこか息苦しさを感じる。初めて彼女ができたのは高校1年の時。 相手は大学生だった。 それからずっと、年上に好かれてきた。 三人兄弟の三男である俺は、家族には末っ子としての自分を、恋人には年下の彼氏としての自分を、求められる通りに演じてきた。それが楽だったからだ。 一人暮らしを始めて家族から解放されたら、窮屈さを感じていたことに気がついた。 彼女といると解放されたはずなのに、いつの間にかまた窮屈さを感じている自分がいる。 俺はふと、鳴らないスマホに視線を落とした。

ともだちにシェアしよう!