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第16話

講習後、会議室で待っていると、宇井が顔を出す。 「お疲れ様」 「何で芳賀が……久住は?」 「みんな先に店に行ったよ」 「え? 久住に本社に来いって」 「俺が頼んだの。俺からの連絡無視するから」 宇井はバツが悪いのか、俯く。 「メッセージ見てるよね? なんで無視するの?」 「今日、何の日かわかる?」 「……同期会だろ」 「お試し期間の最後の日だよ。わかってるのにごまかすんだ」 苛立ちから語気が強くなる。 「宇井とうまくやれてると思ってたんだけどな」 「――やめる。もうやめるっ……!」 「泣いてるの……ごめん、言い方キツかったね」 「俺のせいだろ、彼女と別れたの」 「え……」 「調べたんだ。お前が言ってくれないから。気づかないところだっただろ!」 「俺が付き合わせてるから、彼女との時間が犠牲になったんだろ。俺のせいじゃん。俺、わかんないから。言ってくれないとわかんないから。芳賀は優しいじゃん。俺、どんどん甘えちゃってさ。だからもうやめる! お前の迷惑になりたくない!」 カッと身体が熱くなる。 宇井を思わず抱きしめた。 「そう。宇井のせいだよ。全部。宇井が悪い」 「わ、悪かった! ごめん! は、離せ――」 「宇井が、可愛いのが悪い」 「はあ!? 俺は真剣に話してるのに……からかうな!」 「からかってない。宇井は可愛い。宇井が俺の中でいっぱいになって……宇井のことばかり考えてるよ。だから、宇井が悪い」 「なんだよ、それ」 「逃げないで責任を取ってよ。 俺にしなよ。 俺を選んでよ」 「……こ、後悔するなよっ。と、取り消しなしだからっ!」 「ありがとう」 彼の言葉が耳に響く。 その瞬間、嬉しさがこみ上げてきた。 思わず顔を近づけ、キスをした。 その瞬間、全ての不安が消え去り、愛しさだけが残る。 彼の柔らかい唇が、俺の心の奥に温かさを広げていく。 もう、放してあげないよ。 俺は、静かに宣言した。

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