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猫(7) 黒猫とひとつに
その夜、風呂上がりの俺は、くろ丸の長い髪をドライヤーで乾かしていた。本当にくそ長い髪で、乾かすのに時間がかかる。
くろ丸がコクッと頭を揺らした。
「……眠いか?」
「うみゃ……」
頷きか眠気かわからないが、再び頭が揺れた。
あらかた乾いたのでドライヤーを切り、くろ丸に話しかけた。
「くろ丸、寝る前に聞いてくれるか?」
「うみゅー眠たいニャ……」
「大事な話なんだ。すぐ終わるから」
「わかったニャ……」
目をゴシゴシ擦るが、いつもの三分の一くらいしか目が開いてない。今言っても覚えてくれないかもしれないけど、言っておかねば。
「くろ丸、お前さ、時々チンチン触ってるだろ。もし次に触りたくなったらさ、俺がいる時にするか、それか、この部屋だけでするって決めてくれないか?」
「絶対にやめろ」とは言えない。どうしても勃ってしまうことはある。触りたくなってしまうこともある。女にはわからない男の体のメカニズム上、仕方ないのだ。
だがくろ丸は口をへの字に曲げて、こう言い放った。
「もう触らないニャ」
「え?」
「もう絶対にチンチン触らないニャ!」
「いや、触っちゃダメなんて言ってないだろ」
「言ってるニャ!ご主人様のママもおねーちゃんも、やめろって言うニャ!触るの悪いことニャ!悪いことだから、痛い痛いになるニャ!」
完全にへそ曲げたか?
くろ丸の目から涙がポロッと出た。
「くろ丸……」
「ご主人様のこと、考えると、いつもチンチンがチクチクするニャ。触ると背中がサワサワして、もっと触りたくなるニャ。ご主人様がどうやってくろ丸のチンチン触ってたかなって思い出すと、段々止まらなくにゃって……っ。すごく痛くなって、でも、ご主人様がやってくれたみたいに出来なくてっ、チンチン触るのもうやにゃのにっ、またっ、今も痛いニャ……っ」
「くろ丸、ごめん!」
俺はくろ丸を強く抱きしめた。俺のことを考えて、してくれてた。全部俺のせい。くろ丸をこんな体にしてしまった。罪悪感と共に、愛しさもこみ上げる。
すぐにでもくろ丸を抱きたいけど、教えられることは教えねば。
「くろ丸、触っちゃダメなんてことはないよ。触っていいんだ。でも、この部屋だけにして。見せるなら、俺だけに。俺のくろ丸だから、他の誰にも見せちゃダメだ」
「うにゃ。くろ丸のチンチンはご主人様のものだからニャ?」
「……うん、そう。俺のものだ」
「……じゃあ、いま見てほしいニャ。……痛いニャ」
「どれ?」
くろ丸の浴衣の裾を上げる。床から少し宙に浮いたくろ丸のペニスがあった。
俺はくろ丸を膝に乗せると、くろ丸にわかるようにそれに手を寄せた。
「あっ……」
くろ丸がピクッとした。
「ちゃんと見てろ。教えてやるから。こうして、優しく持つんだ。そうしてこう動かす」
「んっ……!にゃあぁぁっ」
感度が良すぎるのか、数回擦っただけでくろ丸は背を反らした。
「くろ丸、ちゃんと見てるか?」
くろ丸は辛そうに目を瞑って首を振った。
「くろ丸、じゃあ自分でやってみろ」
俺が触るとダメかもしれない。だが、くろ丸は首を振る。
「やにゃ。ご主人様がいいニャ」
「ダメだ。自分で出来るようにしたほうがいい」
「やにゃあ。ご主人様にしてもらうニャー」
「くろ丸が一人の時にしたくなったらどうする?痛くて辛いだろ?自分で出来たら気持ちいいぞ」
「我慢するニャ。痛いの我慢出来るニャ!だから早くするニャー」
ゴロゴロと喉を鳴らしてすり寄ってくる。前から思ってたけど、くろ丸は甘え上手だ。こんな性格にしたのは、やっぱ俺のせいだよな。可愛くてたまらない。
……でも。
「くろ丸は俺の、だよな?」
「そうにゃ」
「それなら好きにしていいんだよな?」
「いいニャ。でも痛いのはやにゃ」
「わかってる。じゃあ、俺のくろ丸。俺の願いを聞いてくれるな?」
「うにゃ」
コクッと頷くくろ丸。聞いてくれるといいんだけど、と思いながら言ってみる。
「自分で触ってるところを俺に見せて」
くろ丸の股間を指差した。即座にくろ丸は首を振る。
「それはやにゃ!さっきも言ったにゃ!ご主人様が触るにゃぁぁっ」
「上手に出来たらいっぱい触ってやるから。くろ丸が上手に出来るの見たいなぁ。出来たらすっごいビックリして嬉しくなっちゃうなぁ!」
「うれしく、なるニャ?」
「うん、そう。嬉しくて幸せになる。ニコニコしちゃう」
「……わかったニャ。見てるニャ」
くろ丸は足を広げると、ソッとペニスを掴んだ。ゆっくり上下に動かし始める。
「そう。上手いな。引っ張る必要はないからな。優しく触るんだよ」
「うにゃ……」
段々と勃ち上がり固さを増していくのが目に見えてわかる。色っぽい扇情的な姿に俺自身も熱くなってくる。くろ丸に触れたい、でも今は見守らねば……!
「ここの筋とか、この上のほうとか気持ちいいから触ってみ」
くろ丸の手をいざなって場所を説明する。いっそのこと俺が触って教えたいが、確実に止まらなくなるから我慢だ。
「んんっ、は……っ」
気持ちいいポイントを見つけたのか、擦りながら腰を動かし始めた。もう片方の手が、胸の辺りを撫でている。浴衣に胸の突起が浮いているのが見えた。
ヤバイ、教えてる立場で何だけど、俺も股間が痛い。ズボンの中で張り詰めてる。早く開放したい。くろ丸に触れたい。
でも、一度はくろ丸に自分で最後までさせないと。ここで手を出したらまた依存されてしまう。
「ご主人、さまっ……、あっ、あぁ、ご主人、さまぁ」
頼むから呼ばないでほしい。耳を塞ぎたいけど、聞いてたい。可愛い鳴き声。
「あ、あぁっ、やにゃっ、これ、あっ、あっ──!」
ビクビクッと身を震わせながら、くろ丸は達した。そしてクタッと首をもたげた。
「くろ丸、よく頑張ったな」
ソッと頭を撫でる。くろ丸は肩で息をしながら、こちらを見た。
「上手に、出来たかニャ……?」
「うん、上手だった。ちゃんと出たな」
「じゃあ、笑ってニャ。ニコニコ、してニャ」
「うん」
精一杯の笑顔を見せる。笑えてるだろうか?くろ丸はフフッと笑い、俺に近づいた。
「じゃあ、早く触ってニャ」
「え?」
「上手だったから、くろ丸のチンチン、いっぱい気持ちよくしてニャ」
したいのはやまやまだけど……。
「お前、もう疲れただろ?眠いよな?」
「うにゃ、眠くないニャ。ごほうびちょうだいニャ。早く……」
俺の手をくろ丸が股間に導く。今出たばかりの精子がヌルッと付いた。
「でも……」
「早く、してニャ。……約束したニャ……っ」
大きな瞳に涙が浮かぶ。
「うん、わかった。ごめん。泣くなよ」
くろ丸の頬に手を伸ばした。もう始めてしまったら止められない。夢で見た裸の心地よさを思い出し、胸が高鳴る。ただ、黒猫に戻ってしまわないか、一抹の不安も感じた。あれが正夢になったら……?
くろ丸に唇を重ねた。くろ丸が消えてしまわないように、目は開けたまま。くろ丸も目が開いている。俺はプッと吹き出した。
「くろ丸、キスする時は目は閉じるんだ」
「ご主人様も開いてるニャ」
「俺はいいんだよ。お前もしかして、いつも開けたまんまだった?」
「うにゃっ」
コックリ頷くくろ丸。俺は笑いを隠せないまま、くろ丸の目に手を添えた。
「ほら、閉じてみな」
「うみゅー」
若干不満の声を出しながら、長い睫毛を閉じた。本当に綺麗な顔をしてる。
なめらかな頬に指を滑らせ、赤い唇をついばみ始めた。段々深く、舌を差し入れる。くろ丸も乳を吸うように唇を吸い、俺の舌を奥までいざなう。
俺は手探りでくろ丸の帯を解いた。浴衣をはだけさせ、全てを露わにする。頬や首筋を吸いながら、胸を揉みしだいた。
「あっ……。……んにゃ」
すぐに蕾が固く主張する。その尖りをつまみ、刺激を加える。
「あっ!やにゃっ、……あっ、ぁっ」
背中を仰け反らせて逃げようとするが、腰をガッチリ捕まえて蕾を口にした。
「やっ!あぁ……っ」
頭を打たないよう、そっとくろ丸を横たえながらそれを舌で転がす。
「あっ、あぁっ」
バタバタと暴れる足を広げ、俺の腰でホールドする。触れた部分から、くろ丸の下半身が固くなってきているのがわかった。
キスと乳首だけでこんなに感じてくれてるのか。俺は感動を覚えながら、口づけを徐々に下にずらしていく。
胃の辺り、ヘソ、下腹、恥骨。……そして、ペニス。立ち上がり始めていたそれを口に含む。
くろ丸は全身を震わせ、閉じていた目を大きく広げた。かつて勃ち上がったそれを初めて目にした時のように。
さっき出た精液の味がほの苦く口に広がる。でもそれを舐めとり、唾液と共に飲み込む。そして、くろ丸自身を深く咥え、唇と舌でしごいた。
「あっ!いやにゃっ!ご主人様っ舐めちゃやっ……!」
髪をサワサワ触られた。引っ張られるかと思ったけど、そんなことはなかった。
「あっ……あっ……出ちゃう……っ」
くろ丸自身が張り詰めているのがわかる。筋をくすぐるように指先で撫でる。くろ丸が悲鳴のような声を上げた。
「んぁっ、ん──っ」
くろ丸が全身を緊張させ、精液を放った。全て出るように擦ってやる。
「んっ、ん……ご主人さま……」
「ん?どうした?」
くろ丸が俺に手を伸ばした。くろ丸の手が俺の頬に触れる。
「ちゅー、してニャ」
「うん」
チュ、チュ、とくろ丸の唇をついばむ。
そしてくろ丸の精液で濡れる指を、くろ丸の肛門に当てた。今回も一本目はすんなりと侵入が許された。内壁に沿わせながら、指を動かし始めた。
「あっ」と小さく声を出してくろ丸が身じろぐ。指が締め付けられる。これをほぐさなくては。少しずつ広げるように動かす。
「んっ……やにゃ……っ」
「くろ丸、息を止めないで。ハーッて吐いてみて」
「は、はっ……て?ぁっん──っ」
「じゃあ、ふーーってしてみ。ふーー」
くろ丸の顔や首に息をフーフー吹きかけてみる。くすぐったいのか、くろ丸は笑って身をよじった。
「ふ、ふー、ニャ?」
「そう。息をいっぱい吸ってから、ふーーって」
くろ丸が息を吸い込み、胸が上がる。震えるように弱々しく息を吐いた。緩んだ隙に、もう一本指を入れた。
「うん、上手い」
「うまい?」
「うん、上手」
「もっと、ふーーって出来るニャ。っ上手に……っん、出来るニャ……っ」
「やってみて」
再びくろ丸が息を吸い込む。
「…ふーーっん!ぅんんっ」
頑張るくろ丸があまりにも可愛くて、たまらず唇を奪ってしまった。
「ちゅーしたらふーって出来ないニャ!」
むくれるくろ丸も可愛い。
「ごめんごめん。でも鼻から出せばいいのに」
「はにゃ?……あっ!やっ、ご主人様っ、やだっ」
突然、くろ丸が仰け反った。くろ丸の中がうごめき、高ぶりから精液が滴る。
「あぁっ!ああ、やにゃ、あっ!やあぁぁ……っ」
くろ丸がかすれた声で苦しそうに喘ぐ。いわゆるGスポットを刺激してしまったようだ。くろ丸の様子を見るに、あまりもう時間はかけられない気がする。
ソッと指を抜いて、肛門に俺自身をあてがった。
「くろ丸」
「……っ、んにゃ……?」
「苦しいだろうけど、ふーって出来るか?」
「んにゃ……」
くろ丸の息づかいに合わせて、腰を埋めていく。くろ丸が眉間を寄せている。
「くろ丸、すげー上手」
くろ丸は言葉もなく、コクコクと頷いた。
「くろ丸、痛い?」
くろ丸は首を振る。
「痛かったら言って」
くろ丸が頷くのを見届けてから、ゆっくりと腰を動かし始めた。くろ丸が息を飲むのがわかった。
腰を打ち込む度に、くろ丸が小さな声を上げる。その声をもっと聞きたくて、深く打ち込む。くろ丸の背中が反り、爪がシーツに食い込んでいる。乳首がやたらと艶めかしい。それをついばむと、肛門がキュッとしぼみ、危うく達っていまいそうになった。
……それにしても部屋が暑い。汗だくだ。くろ丸の体に触れるとしっとりと汗ばんでいる。
二人の吐息と、くろ丸の喘ぎ声。柔らかくて温かいくろ丸の中。気持ちが良すぎていつでも達けそうだ。
でもこのまま、ずっとこのまま繋がっていたい。
程なくして射精した。
くろ丸の中に放つのは忍びなくて、抜いて処理した。くろ丸から抜いた時の刺激のせいか、くろ丸自身も精液を放った。
「……っ」
お互い肩で息をしている。二人ともぐったりだ。そばにあるタオルで、くろ丸の汗と精液を拭いた。風邪をひくといけない。
「くろ丸、平気か?……シーツ丸洗いだな。あと俺らもシャワー浴びたほうがいいか」
くろ丸がムクッと起き上がった。汗で額や頬に髪が張り付いてる。髪を整えてやりながら、首筋の汗も拭いてやった。くそ長い髪が首や背中にもくっついてる。
「暑かったな。風呂場行ってスッキリしような」
くろ丸が首を振った。グスッと鼻をすする音がするので顔を覗き込むと、大きな目に涙をためていた。
そして勢いよく俺に抱きついた。
「うわっ!どうした?」
耳元でかすかな嗚咽が聞こえ、俺の肩や背中に生暖かいものが流れた。
「何だよ泣いてるのか?痛かったか?」
背中をさすってやる。くろ丸は首を振った。
「怖かったのか?」
また首を振る。
「くろ丸、顔を見せて」
イヤイヤをするように俺にしがみついて離れない。
「くろ丸、どうしたのか言ってくれないとわかんないよ」
さっきから全く喋らないのが気になる。まさか、喋れなくなってるのか……?
「くろ丸……?なんとか言ってくれ」
「……して……」
かすかにくろ丸が声を発した。
「ん?何?」
「ご主人様、ぎゅって、してにゃ……」
カサカサで小さな声だが、確かに聞こえた。細くて抱き締めると折れてしまいそうな背中を、優しく強くかき抱いた。
「だいすき、だいすき……っ」
「俺も」
パタパタとまたくろ丸の涙が俺の背中を流れた。
今夜はこのまま離れそうにないので、くろ丸を毛布でくるんでやると、やがて静かな寝息を立て始めた。ソッと横たえ、添い寝する。涙に濡れた頬を拭いてやり、口づけを落とすと、俺にも眠気が襲ってきた。
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