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『なないろ』緋色編〜花火 1 *Rなし

「旧からのメンバーが『緋色(ひいろ)』『橙也(とうや)』『黄騎(こうき)』『紫曜(しよう)』」  順に指で指して行く。  差されたメンバーはそれぞれぺこりと頭を下げた。 「新メンバーは『(あお)』『(りょく)』『藍人(あいと)』。リーダーは橙也ね。長らくいなかった『青』が今回は揃って本当に良かったよ〜」  大きな窓を背にデスクに座った男がにこにこと笑っている。人好きのする顔にも見えるが、何処か胡散臭くもある。 「しゃっちょー、僕らってほんっとに名前だけで選ばれてるんでっすねーっ」  最年長で今回リーダーに選ばれた橙也が自棄っぱちのように言う。 「え? そうなんすか。どうりで変だと思ったんすよ、おれなんかが選ばれるって」  『青』の座を獲得した最年少の青が明るく言う。『名前だけ』と言われも少しも卑屈に感じない。 「なんか、戦隊モノみたいですねー」  そう言いながら、戦隊モノのキメポーズ的なことをする。 「やっと『なないろ』揃ったなー」 『しゃっちょー』と呼ばれた男は揉み手をした。  芸能界で多大な力を持つ大手プロダクション『桜ノ森スターズ』通称『SAKU(サク)プロ』は、男性アイドル専門のプロダクションだ。  その中でも『なないろ』は、『ザ・アイドル』という色の強いユニットで歴史も長い。  結成されて十五年。しかし、何度かメンバーも入れ替わり、七色(ななしょく)揃わない時期もあった。  新生『なないろ』が結成されたのは、二年前のことだった。 ★ ★ 「カット〜〜!!」  通りの良い声が響き渡り、その場にいる全員の動きがぴたっと止まる。この場をとりしきる映画監督の声だ。  一瞬の間の後、隣にいた別の男がそれに続いた。監督よりも少しやんわりした声の助監督。 「本日の撮影はこれで終了です。皆様お疲れ様でした」  張り詰めた緊張が解かれ、時間が流れ始める。そこかしこからさざめきが起きる。助監督は更につけ加えた。 「加えて、一週間お疲れ様でした。明日の撮影はありませんので、ゆっくり身体を休めてください。明後日の午後から撮影再開します」  その言葉を機にスタッフ、俳優の動きが加速する。スタッフは機材の片づけ、監督・助監督・カメラマンは早速今の撮影についての確認を始める。  俳優たちは――ゆっくり休んでいる暇などないというように挨拶をすると、さっさと立ち去った。  そんな光景をのんびり眺めているのは、細身で背の高い赤い髪の男だった。  アイドル・ユニット『なないろ』のメンバーであり、この映画『この海に捧ぐ』の主演男優でもある『緋色』。 『この海に捧ぐ』は緋色の為に製作されると言っても過言ではない。

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