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『Double Crown〜彼方編 おれの推し活日記』最終話

 そして、彼方は。 「え? 引退?」  久しぶりにSAKUプロビルの十階レッスン室を訪れた。Double Crownが解散した後のことだ。  Crashのメンバーに挨拶する為だった。  いつも通り空斗と星乃が他のメンバーより先に来ていた。  彼方は彼らに引退することを告げた。 「引退……なんて、たった一年やそこらアイドルしてたくらいでそんなえらそーなこと言えないんだけど」 「え〜彼方くん、Double Crown解散したらCrashに戻るって話じゃなかったの〜」  えーんと声を上げて星乃が抱きついてきた。 「ごめん、星乃。煌さんとユニット組んで半年で四曲も出させて貰ってテレビにもCMにも出させて貰って最後は解散ライヴを華々しくやったら、なんかもう燃え尽きちゃって。いい人生だなって」   ちょっと大げさなことを言ってみる。実際そういう部分もあるが、元々デビューする気もなかったのに棚ぼたで推しとユニット組めて半年といえどアイドルできたんなら、もうこれ以上続ける必要はないというのが彼方の考えだった。  Crashで頑張っている二人には申し訳なくて本音は言えない。 「そうなんだぁ~ってかなんで解散になっちゃったの? 人気も一気に上がってこれからって時に。やっぱ煌さんのこと苦手だったとか? 最近は上手くいってるように見えたけどなぁ」  解散理由についてはSAKUプロ内でも知らされていない。何しろ秘密プロジェクトだから。仲の良い二人といえどそれは明かすことはできない。 (なにしろとんでもないプロジェクトに、想定外の結末だもんな)  彼方が何も答えずにいると、その横でぼそっと声がした。 「最初(はな)っから苦手なんかじゃないよなー」  それは彼方を挟んで反対側にいる星乃には聞こえないくらいの声だった。 (んん? なんだかいろいろバレているような)   空斗の声にも言葉にもそんな意味が潜んでいるような気がして彼に顔を向ける。 「МVだだ漏れだもんなー……」  トドメの一言が突き刺さった。 **  彼方の推し活は、推しを手に入れたことで終わりを告げたーーのか? 「ただいま、彼方」 「お帰りなさい、煌さん。お疲れ様です」  そう言いながら彼方はソファーから離れない。目の前のローテーブルにはA四版サイズの本が四冊。  彼方は桜ノ森スターズを退社した為寮をでなければならなかった。今はまた実家暮らしに戻っている。昨年度忙しすぎた為単位を落として今年も大学四年生だ。  今も勿論忙しい煌とはほとんど煌のマンションで会っている。彼方は煌に合鍵を貰っていたので会いたくなったらこうしてマンションで待っている。というよりもういっそ一緒に住んでしまえばいいくらいに通っているのだが。 「なんでそれ四冊もあるんだ?」  自分の王子顔が表紙のそれを上から眺めながら訝しげな顔をしている。  それは煌の本日発売の写真集だった。  良くぞ聞いてくれましたとばかりに彼方は食い気味に語る。満面の笑顔で。 「保存用、家で見る用持ち運び用ですよ。あとはー煌さんの家に置く用!」  煌は頭を抱えていた。 「どうしました? 煌さん?」 「お前さー、なんだって本物が傍にいるのに写真集のほうがいいかなー」  ちょっと不貞腐れたように言う。 (拗ねてるのかな〜かわいい~)  そう思ったら愛しさがこみあげてきて、バッと立ち上がってぎゅっと抱きついて、そしてちゅっと頰にキスをした。  煌から「ちっ」と舌打ちするのが聞こえてきたけど、その口元には愛しくて仕方ないという気持ちが滲みでていた。  そして彼方の無自覚推し活はまだまだ続く!                えんど♡      

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