110 / 115

『BLACK ALICE』トワ✕ウイ編〜憂えるチェシャーは不機嫌な三月うさぎを好きすぎる*R18―1

「これをオレたちが演るってんですか? マジすかー」  語尾が下がって、テンション低め。  開いた状態のB6版サイズの書籍で顔を隠している。  ソフトカバーの表紙は、女性とも男性ともつかない人物のイラストが描かれている。半身で頭が下向き。顔は虚ろで、薔薇に埋もれている。  色彩は黒とセピア、それと一箇所に、真っ赤な血が滴っている。全体的にダークな印象だ。  タイトルは。 『黒薔薇の微笑』  BLACK ALICE主演映画の原作小説だ。  五周年企画としてメンバーに発表されたのは一週間ほど前のこと。  そして、それよりも一年前。 『BLACK ALICEをモデルに小説を書かせて頂きたい。  そのために取材をさせて頂きたい』    作家桜乃(さくらの)(はな)が桜ノ森スターズ社長に直に申し入れた。話を聞き、おもしろがった社長はそれを承諾した。  そんな経緯でこの小説は執筆され、ついひと月前に発売されたのだ。  その時著者からの約束事はもう一つある。 『このことについては公表しない。  名前、その他の名称は変更する』  ということ。 「とか言ってたけど、この映画、バンド名もキャラの名前もオレたちのそのままの名前使うんだろ? っていうかー。ひと月前に発売で、もう映画の話っておかしくない? 正直この人別に有名作家じゃないし。書いてるジャンルがジャンルだしー」  桜ノ森スターズビルの十三階一番奥のレッスン場で本を読んでいたのは、BLACK ALICEのギター担当Cheshire cat(チェシャー)のウイ。  メンバーの中で一番派手なメイクをしている。基本の髪は肩につくかつかないかの長さだが、なんのバランスも考えずに疎らに長い髪が飛び出ている。黒から青へのグラデーションカラーで、飛び出た毛先は水色だ。  ウイは本を閉じて作業用の長テーブルの上に置いた。 「んなのその話があった時から社長の頭にはあったんだろ」    そう答えたのはベースのトワ。  March hare(三月うさぎ)の異名を持つ。  ひょろっと背が高く、いつも仏頂面。恐らくメンバー最年少。だけど、年長者への敬意はまったく感じられない。  恐らくというのは、メンバーの中ではリーダーのソウしか彼らのプロフィールを知らないからだ。そして、特に誰も知ろうともしない。  トレードマークのハットの下からミルクティーブロンドが覗く。 「まぁそうでしょーなー」  とトワの言葉に同意する。 「でもいいのか、これ。BLだし、かなりエロなんだけど。SAKUプロのアイドルがこんな映画撮っていいの? 映画でどの程度まで再現するかはわからないけど、キスくらいはあるのか?」  そう言いながら、ついトワの唇を見つめてしまう。 「なにBLって? エロい話なんだ? っていうか、俺たちアイドルでもないだろ」  持っていたベースをスタンドに置き、ウイの隣のイスに座る。 「……トワたん、これ読んだ?」 「読んでない。俺、本は読まない。つかトワたんっていうな」  あーですよねーっというような顔のウイ。 「トワたん、ほんと、音楽以外興味ないよね。あ、一つだけあるか」  最後の言葉は独り言のように口の中で呟く。 「BLっての、ボーイズラブ。男同士の恋愛を描いたジャンルなんだよ。著者はBL作家さんだから、この小説もそう」 「ふぅん」  説明してもあまりぴんとこないようだ。 (男同士の恋愛っつって、ぴんとこないの? おまえが?)  そこまで考えたらもやっとしたので、いったん置いた。 「まぁ、ホラー味が強い話だから、そっちは薄々になる可能性はあるけど。ちなみにもしそのまま再現された場合」  にやりと妖しげな笑みを浮かべる。 「楽器の担当からいって、オレとトワだからね」 「何が?」 「だから、オレとトワがえっちするの。それから、オレら最後死ぬから!」 「えっ」  さすがの無表情男も顔色を変える。それがえっちするということにか、死ぬと言うことにか。恐らく両方だろう。それがおかしくてウイは大笑いした。 「取材受けた時、最後言われなかった? 最後死んじゃうんですけど、いいですかー? って」   取材はメンバー、マネージャー、社長が個々で行われた。どんな話をしたのか誰も話していない。ただし、リーダーのソウとユエは、ユエが離れたがらないので一緒だったが。 「そういえば? 言っていたような?」  きっとたいして記憶にも残っていないのだろう。 「台本くるの、楽しみだね〜」  ぽんっとトワの肩に手を乗せると、即座に叩かれた。 「トワたん、つめたーい」  またあははと笑った。 (それにしても……この話、どこまでが真実なんだろう……)  

ともだちにシェアしよう!