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『BLACK ALICE』トワ✕ウイ編〜憂えるチェシャーは不機嫌な三月うさぎを好きすぎる*R18―1
「これをオレたちが演るってんですか? マジすかー」
語尾が下がって、テンション低め。
開いた状態のB6版サイズの書籍で顔を隠している。
ソフトカバーの表紙は、女性とも男性ともつかない人物のイラストが描かれている。半身で頭が下向き。顔は虚ろで、薔薇に埋もれている。
色彩は黒とセピア、それと一箇所に、真っ赤な血が滴っている。全体的にダークな印象だ。
タイトルは。
『黒薔薇の微笑』
BLACK ALICE主演映画の原作小説だ。
五周年企画としてメンバーに発表されたのは一週間ほど前のこと。
そして、それよりも一年前。
『BLACK ALICEをモデルに小説を書かせて頂きたい。
そのために取材をさせて頂きたい』
作家桜乃 華 が桜ノ森スターズ社長に直に申し入れた。話を聞き、おもしろがった社長はそれを承諾した。
そんな経緯でこの小説は執筆され、ついひと月前に発売されたのだ。
その時著者からの約束事はもう一つある。
『このことについては公表しない。
名前、その他の名称は変更する』
ということ。
「とか言ってたけど、この映画、バンド名もキャラの名前もオレたちのそのままの名前使うんだろ? っていうかー。ひと月前に発売で、もう映画の話っておかしくない? 正直この人別に有名作家じゃないし。書いてるジャンルがジャンルだしー」
桜ノ森スターズビルの十三階一番奥のレッスン場で本を読んでいたのは、BLACK ALICEのギター担当Cheshire cat のウイ。
メンバーの中で一番派手なメイクをしている。基本の髪は肩につくかつかないかの長さだが、なんのバランスも考えずに疎らに長い髪が飛び出ている。黒から青へのグラデーションカラーで、飛び出た毛先は水色だ。
ウイは本を閉じて作業用の長テーブルの上に置いた。
「んなのその話があった時から社長の頭にはあったんだろ」
そう答えたのはベースのトワ。
March hare の異名を持つ。
ひょろっと背が高く、いつも仏頂面。恐らくメンバー最年少。だけど、年長者への敬意はまったく感じられない。
恐らくというのは、メンバーの中ではリーダーのソウしか彼らのプロフィールを知らないからだ。そして、特に誰も知ろうともしない。
トレードマークのハットの下からミルクティーブロンドが覗く。
「まぁそうでしょーなー」
とトワの言葉に同意する。
「でもいいのか、これ。BLだし、かなりエロなんだけど。SAKUプロのアイドルがこんな映画撮っていいの? 映画でどの程度まで再現するかはわからないけど、キスくらいはあるのか?」
そう言いながら、ついトワの唇を見つめてしまう。
「なにBLって? エロい話なんだ? っていうか、俺たちアイドルでもないだろ」
持っていたベースをスタンドに置き、ウイの隣のイスに座る。
「……トワたん、これ読んだ?」
「読んでない。俺、本は読まない。つかトワたんっていうな」
あーですよねーっというような顔のウイ。
「トワたん、ほんと、音楽以外興味ないよね。あ、一つだけあるか」
最後の言葉は独り言のように口の中で呟く。
「BLっての、ボーイズラブ。男同士の恋愛を描いたジャンルなんだよ。著者はBL作家さんだから、この小説もそう」
「ふぅん」
説明してもあまりぴんとこないようだ。
(男同士の恋愛っつって、ぴんとこないの? おまえが?)
そこまで考えたらもやっとしたので、いったん置いた。
「まぁ、ホラー味が強い話だから、そっちは薄々になる可能性はあるけど。ちなみにもしそのまま再現された場合」
にやりと妖しげな笑みを浮かべる。
「楽器の担当からいって、オレとトワだからね」
「何が?」
「だから、オレとトワがえっちするの。それから、オレら最後死ぬから!」
「えっ」
さすがの無表情男も顔色を変える。それがえっちするということにか、死ぬと言うことにか。恐らく両方だろう。それがおかしくてウイは大笑いした。
「取材受けた時、最後言われなかった? 最後死んじゃうんですけど、いいですかー? って」
取材はメンバー、マネージャー、社長が個々で行われた。どんな話をしたのか誰も話していない。ただし、リーダーのソウとユエは、ユエが離れたがらないので一緒だったが。
「そういえば? 言っていたような?」
きっとたいして記憶にも残っていないのだろう。
「台本くるの、楽しみだね〜」
ぽんっとトワの肩に手を乗せると、即座に叩かれた。
「トワたん、つめたーい」
またあははと笑った。
(それにしても……この話、どこまでが真実なんだろう……)
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