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「おはよう。お疲れ」  部屋に入ってきたのは、リーダーのソウ。  『Mad hatter(マッドハッター)』。ドラム担当。  ゴシック系ビジュアルバンド『BLACK ALICE』は彼のプロデュースで、SAKUプロの中でも異色のユニットだ。素顔もプロフィールも明かさない正体不明さをコンセプトにしていて、事務所内でも素顔を晒さない。  ただし、ソウ自身は同事務所の人気ユニット『なないろ』の初代リーダーだったため、人気がありすぎて隠せない――というより、わざと晒してデビュー前からBLACK ALICEの名を広めていた。 「……はよ」  ソウと一緒に入ってきたのは、『Queen(クィーン)』のユエ。ボーカル担当。  しかし二年ほど前からソウにピアノを習い始めた。かなり上達が早く、最近のライブではピアノやキーボードを披露している。キーボードを担当する日も近い。最近は作詞作曲もするなど、音楽には意欲的。  三年前のごたごたの後、多少喋るようにはなったが、相変わらずソウにべったりだ。  そして『ALICE』。  ALICEは今でもライブや、クリスマスに行われる『桜ノ森スターズ・オン・ステージ』などに登場し、それを目当てに来るファンも増えた。  BLACK ALICEは夏から五周年ライブツアーを開始し、今はその中休みといったところだ。中休みといってもこの先に行われるオン・ステやカウントダウンライブなどやることはたくさんある。  ユエやソウ抜きだったカウントダウンライブも昨年からは二人とも参加している。  彼らはそればかりでなく、五周年ライブのラストを飾るSAKURAドームTHREE DAYSの構成などにも取りかかっていて、大忙しだ。  ソウがテーブルの上に乗っている本に目を留める。 「ウイ、それ、読んでるんだ?」 「まぁだいたい」 「勉強熱心だな」 「どうも――ソウくんは読んだの?」 「読み終わった」 「さすが! ユエちんは……」  ちらっとユエのほうを見るとそっぽを向いていた。 「読むわけないか〜」  あははと笑う。 「でもこれ五周年企画ってなってるけど、撮影は五周年ライブ後で、公開されるのって早くても六周年ライブ後なんじゃないの〜? おかしくない?」 「そうだな。でも、THREE DAYS直前で発表されるから、ぎり五周年企画なんじゃないか」  そう言いながらも苦笑している。  社長の考えることはわからん、と心の中で思っているのをお互いに分かりきっていた。 「でもさ」  ウイが悪い顔をする。 「オレらTHREE DAYSできないんじゃな〜い?」 「なんで?」  とユエが珍しく突っ込む。 「だって」  ウイはトントンとテーブルの上の本を指先で叩いた。 「この話の中ではTHREE DAYSは中止になるんだよ、五人目のメンバーが死んで」 「五人目のメンバーって誰?」 「さ〜誰でしょ〜」  ウイがにこにこしながら言うと、ソウは「はは」と乾いた笑いを漏らした。 * *  ――月日は流れ、誰かが不幸になることもなく、SAKURAドームTHREE DAYSは無事終了した。  そして、予定通りTHREE DAYS初日の前日に、五周年記念として、BLACK ALICE主演映画『黒薔薇の微笑』の制作発表が正式に成された。 「いよいよ初顔合わせですな〜」  揉み手をしながら調子のよい声を上げたのは、もちろんウイ。 「めんどい……」 「めんどい言うな」  ぼそっと零れたユエの言葉をソウが拾って窘める。  トワは一言も話さず一番後ろを歩いている。 「はよーっ」  大声とともにソウがバシッと背中を叩かれた。 「って」  軽く唸る。  振り向くと、カシスレッドの髪の男が立っていた。 「ソウ、久しぶり!」 「ヒビキ」    SAKUプロでもう一つの変わり種、パフォーマンス集団『無限(むげん)』のリーダーを務めるヒビキだった。ソウとヒビキは研究生の同期で今でも仲のよい友人だ。 「え? なんで?」  その仲のよい友人にも今まで話せなかったことがあった。 「なんでだと思う?」  言いたくてうずうずしている様子。 「え? まさか――五人目の」 「はい! そのまさかです! 俺が五人目のメンバー『トランプ(Card Soldier)』のヒビキです」  胸に手を当てて大袈裟にお辞儀をする。 「五人目のメンバー……いたの?」  本気で五人目のメンバーがいると思っているユエだった。 「や、いないから」  ユエにだけ聞こえるようにソウが訂正した。 「五人目、ヒビキさんなんすかー」 「おう、ウイも久しぶり」  ウイはメンバーの中ではコミュ力があるほうで、気に入れば他のユニットメンバーとも話す。ヒビキは特に、ソウと仲がいいのが見て取れる相手なので自然と話も弾む。それにヒビキ自身も人好きのする男なのだ。 「死んじゃう役ですよね〜」 「そうなの〜俺、死んじゃう役なの。っていうか、話始まった時にはもう死んでるってヤツ?」  あははは。  顔を見合わせて笑う二人。 

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