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 撮影三日目午前。  シーン37。  薔薇の館に来てから数か月後。季節は夏。  ウイが煙草を吸いながら石畳を歩いていると、薔薇の中でトワとユエが仲良さそうに話しているのを見かける。軽く嫉妬を感じ、煙草を投げ捨て足で揉み消す。    薔薇の中で二人が話しているシーンは後日別の薔薇園での撮影になるが、演技初心者のウイのために芝生の前庭に実際の位置関係でユエとトワが立っている。 (仲良さげに立っている二人〜。ま、普段そんなことはないんだけど。でも……)  もし、そんな二人を見たら、やっぱり少しは嫉妬するかもしれない、そんなことを考えながら台詞を言う。 「いいね〜ウイくん、いい表情だよ〜」  二度目でOKが出る。  順応性の高いウイは昨日の撮影より落ち着いていた。 「ありがとうございます!」  シーン39〜43  ハクトとアリスを最寄り駅まで迎えに行ったソウの車が戻ってくる。  三人が車から降り、ユエとトワも近くに寄っていく。  ソウから従妹のアリスを紹介される。  アリスの手にはキャリーバッグ。中には自宅で飼っている白い子猫の『ましろ』が。  ユエとアリスが話すシーン。  出番の終わったウイは邪魔にならない位置で見学をしている。  アリス役の涙は、小花柄の可憐なワンピースを着ている。 (わ〜普通の女子大生に見えるよ〜)  会うたびに見せつけられていたオーラのようなものは、すっかりなりを潜めていた。 (さすが、演技派女優!)  感心せざるをえなかった。  少し遅めの昼を取り、午後の撮影。  少し戻って、シーン29から。  館に来てひと月後。   ユエは社交室から隣の個室に移動。  トワが迷い込んできた黒い子猫を連れてくる。  天蓋付きベッドに座って話をする。  ユエは、洋館の最初の持ち主がエルザベート・バートリの子孫らしいということを語る。この洋館は、ユエの親戚筋の持ち物で、自分にもその血が流れているかもと、冗談めかして笑う。  ユエは眠ってしまい、その彼にトワがキスしようとして寸でのところで止める。が、後頭部に負荷――ユエの手がかかり、本当にキスをしてしまう。  カッと見開かれたユエの瞳は緑だった。    明るいうちに屋外の撮影をしたかったため、館内の撮影は後に回された。  なるべく時系列に沿って撮影したいというのが監督の意向だが、天候や時間、また別場所での撮影などでできないこともある。  翌日、社交室での撮影。  ウイは昔バーテンダーをしており、皆にカクテルを振る舞う。  ハクトが持ってきたディスクを、ソウ、ユエ、アリスで観る。それは発表されることのなかった曲のMVだった。  MV部分は、映画撮影後に実際にヨーロッパの古城で撮影させる予定。映画撮影の合間にソウは曲作りと、シウとの打ち合わせを繰り返している。  猫たちとの撮影は終了。明日動物プロダクションのスタッフとともに帰るので、談話室で別れを惜しんでいる。 「俺も明日一旦帰るよ」  ハクトは今日撮ったシーンの後で姿を消すという設定になっており、撮影も今日で終わりだった。 「ハクトさん、撮影お疲れ様〜。演技っていうか、いつものハクトさんだったよね。けど、台詞覚えがいいのは、やっぱり元SAKUプロの研究生だったから?」 「何言ってんだよ。俺はいくつものグループの掛け持ちしてこなしていた敏腕マネージャーだぞ。記憶力には自信がある」  納得できるような、できないような説明だ。 「なるほど?」 「社長に進捗報告して、また戻ってくるから何か欲しいものがあったら連絡くれ」 「は〜い」  室内を見回す。 (あーいたいた)  トワも猫と別れを惜しんでいる。やはり窓際のソファーに座って。  そっと近づいてトワの腿の上に乗っている白い子猫に手を伸ばす。頭を撫でた。 「かわいいね」  無言で嫌そうに見てくるトワ。 「今日は白猫ちゃんだ。トワたんちの猫ちゃんは何色なの?」 「……白だけど」 「あー、ユイは白猫っぽいもんね」  トワは答えなかった。その言い方で、やはり猫の名前を『ユイ』か『ユエ』だとでも思っているのだろう、と確信した。 「ねぇねぇ、今度トワたんちの猫見せてよ〜」 「やだ」 「即答!」 「別にプライベートで馴れ合わなくてもいいだろ。それが、ユエでも、だ」  おそらく突っ込んでくる部分だろうと、先回りして牽制した。  

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