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 二日目すべての撮影を終えると、二十時近くになっていた。  神経と腹を減らし、ふらふらと階段を降りていくウイ。 (たった十数分程度のシーンで、こんだけ時間使うって)  先行き不安でしかなかった。 「あ〜腹へった。そういえばボクちゃん朝から何も食べてないじゃん」  ひと月ホテルのシェフごと貸し切っていた。さすがにホテル仕様のメニューとまではいかないが、それなりのものを用意してくれるという話だ。  キッチンにはすぐに食べられるような軽食。レンジで温めて食べられるガッツリ系のメニューなど様々用意されている。  自室でもキッチン隣のダイニングで食べてもいい。 「もうみんなご飯食べちゃったかな〜」  ウイ一人の撮影時、薄情なことに誰も見学には来ていなかった。 (や、見てもらいたかったわけじゃないけど)  監督、スタッフのみだと緊張度がかなり高まってしまっていたのだ。  キッチンに向かおうとして、談話室から賑やかな声が聞こえてきた。やはりもう皆食事を終えて談話室に集まっているようだ。談話室はちょうど社交室の下にあり、社交室よりも少し狭い。  賑やかさが気になってひょいと扉から顔を覗かせる。 「あ、ウイ。おつかれ〜」  最初に声をかけてきたのはソウ。隣にはユエがいて、真っ黒な子猫を抱いている。 「猫?」 「ウイさん、お疲れ様です。どうでしたか? 初めての撮影は」  今度は涙が真っ白な子猫を抱いて現れた。 「どうしたも、こうしたも……ってか、この子猫たちどうしたの?」 「撮影用の子猫ちゃんたちですよ。昼間動物プロダクションのスタッフの方が連れてきてくれたんです」 「ああ」とウイは納得した。  物語の中で二匹の子猫が出てくる。  一匹は黒猫。トワが迷い込んできた子猫を、ユエの気をまぎらわせるために渡す。  もう一匹は白猫。アリスの飼っている猫で、アリスとともに薔薇の館にやってくる。  二匹とも非業の死を遂げる。ユエの――ユエの中にいる何者かの手に依って。 (まぁ、その辺はCGやらAIやら〜なんだろうけど) 「明日から二日間は猫ちゃんのいるシーンのようですよ」 「なるほど!」 「ウイさんは……まだまだ普段と変わりないお姿ですね。素顔楽しみです」  うふふとまたしても妖しげな笑みを浮かべた。彼女は白猫をケージの中にしまい、「おやすみなさい」と言って部屋を出ていった。  よく見ると白猫は二匹いた。もう一匹は室内を走り回っているのを動物プロダクションのスタッフが追いかけている。 (じゃあ、黒猫ももう一匹いるのかな?)  果たして、予想通り黒猫はもう一匹いて、トワの膝の上でおとなしくしていた。  二匹ずついるのは、不測の事態に備えてだろう。 (おおーっ。トワたんと黒猫! ミスマッチ!)  トワは窓の近くにある長い椅子に座って黒猫を撫でている。音を立てずにそろりそろりと近づく。 (うぁ〜、なんかめちゃめちゃ優しい顔をしてないか?)  トワがユエを見る時、優しいというよりは切なそうな眼差しをしている。自分はもちろん、他の人間にはそんな顔をするはずもなく、こんな顔を見るのは初めてだった。 (オレもこんなふうに見られてみたい。猫にでもなるか!)  自分が猫耳をつけている姿が浮かんできて、ぶんぶんと頭を振った。 「あんた、さっきから何一人で百面相してんだ」  トワは猫の背を撫でたまま顔を上げていた。 「あはは。……ねぇ、トワたんってもしかして猫飼ってたりする? ずいぶん扱いに慣れてるみたいだけど?」  トワの口が微妙にへの字になる。 (っんと、鋭いな) 「まあ」 「へ〜、いっがーいっ。そういうの興味なさそうなのに。もしかして……」   トーンを落とす。 「ユエとかユイとかって名前じゃないの?」  小声で言ってもからかい口調だということがよく分かる。 (やっぱ、苦手だ)  トワは子猫を抱き上げると黙って立ち上がった。ウイの横を通りしな「違う」というひと言。彼もまたケージに猫を戻し、扉に向かって歩いていく。 (ひょっとして、図星?!)      

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