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「あの話?」  言いながら、トワの前にコースター、続いてカクテルグラスを置き、シェイクしたカクテルを注ぎ入れた。  乳白色のカクテル。 「フォールン・エンジェルです」  いつもと違う、客向けの静かな笑みを浮かべる。 「カクテル言葉は、『叶わぬ願い』」 「叶わぬ願い? どういう意味だ?」 「さて」 (トワの……、そして、オレの叶わない思い……なーんちゃって)  トワがグラスに口をつけるのを見定めて。 「どう?」 「きつっ。でも、美味い」 「よかった」  ウイはまたくるっと背を向けると、棚からさっさっと選んで自分用のカクテルを作り始める。 「様になってるな」 「え、オレ、ひょっとして褒められてる?」  撮影でも『ウイ』が自分用に作った『キス・イン・ザ・ダーク』。真っ赤なカクテルでウイに似合っている。ちなみに撮影用はそれに似せて作ったノンアルだが。 「馬鹿」  ウイは手元のカクテルグラスに注ぎ、トワに向かって掲げる。 「乾杯」 「何にだ?」 「うーん。トワたんがボクちゃんとこうして過ごしてくれてることに?」  トワはもう一度「馬鹿」と呟いた。たぶん、冗談だとでも思っているのだろう。 (じょーだんじゃないんだよなぁ)  でも、そう思ってくれていたほうがいい。自分の本心なんて言えない。切ない気持ちのまま笑ってテーブルに置いてあるトワのグラスに、カチンと自分のグラスを当てた。  一口飲み、 「そういえばさっき言ってた」  もうすでに五分以上は前の話題だ。 「『あの話』って?」 「あ?」  トワの中では答えなしでもう完結してしまった疑問だった。軽い興味ぐらいでどうでもいいと思っていたのだが。「んー」と少し考えてから、 「――昔ライブハウスで、ってヤツ」  そう口にした。 「ああ、ライブハウスでホールやったり、バーテンダーやったりとか? あと、女装してバンドやってたとか?」  にやっと妖しい笑みを浮かべる。  トワは軽く顎を引き頷いた。 「ほんとだよ。そこに、ある日ユエを探しにソウとハクトさんがやってきて、ついでにボクちんもスカウトしたってわけ」  その辺はソウも取材で明かしているところなので、気にせず話す。  戯けて言うのは、何故女装をしていたのか、そして今も何故化粧をずっとしているのか、その理由を探られたくなかったからだ。 「じゃあ、もしかして、あの話も……」  トワは何かを言おうとしてウイの顔を見た。自分を見つめるウイの瞳にぶつかり、彼は少し心がざわついたような気がした。 「え? なに?」 「や、なんでも」  ごまかすようにカクテルグラスに口をつける。度数かなり高めのカクテルなのに、酔えないような気がした。 (なんだ? もしかして『あの日』のことを思い出したとか?)  聞いてみたいけど、聞いたら何かが変わってしまいそうな気がする。 「あんたってさー。人と話す時めちゃめちゃ目を見てくるよな。それって癖?」  トワ自身は視線を逸らしたままやや不機嫌そうに言った。 「え?」  ドキッとした。  それは確かに、ウイの癖だった。ちょっとした表情の変化や目の動きで、相手の本心を見極めようとする。化粧同様、それはウイが生きていくために必要だったからだ。  しかし今まで面と向かって指摘されたことはなかった。 「そ、そうかな? 気づかなかった。気をつけるよ」 「……ま、いいけど」  その言葉にはどんな意味が込められているのか、見極めようとして、止めた。ただいつものように、へらへらした表情をするだけだった。

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