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「ふぅ〜お疲れ、オレちゃん」
場所は変わっても入浴後の手入れは欠かさない。とはいえ、撮影で疲れている時は、ウイ的には常よりも雑になってしまっている感じだ。
しかし、明日の撮影は陽が落ちてから。打ち合わせがあるとしても、少なくとも午前中は空きだろう。それだけで気分はかなり楽で、今日の疲れも吹っ飛ぶというものだ。今日は普段と同じように時間をかけて、顔はもちろん足の先まで念入りに手入れをする。
(気分は楽? や、そんなことない〜~)
るんるんした気持ちで手入れをしていたが、はたっと気づく。気づく――というよりは、不安を押し殺して自分自身をも欺いていた、というのが正解だろう。
何故なら。
(いよいよ明日、素顔大こうか〜い! じゃない! しかも、このつるんつるんの足までトワに見せなきゃいけないなんてっ)
そう、明日、とうとうXデー――『ウイ』が素顔で登場するシーンがやってくるのだ。
眠る間際の『ウイ』という設定だ。さすがに眠る時までメイクをしているはずはない。
シーン56
メイクを落とし、バルコニーで缶チューハイを飲むウイ。空には妖しげな赤い月。しんと静まり返った中に何かを引きずるような音がして、目を凝らして薔薇の庭を見るが真っ暗でよく見えない。
シーン58〜
ベッドに入るがなかなか寝つけないウイ。
真夜中の静けさを引き裂くような悲鳴が聞こえ、続いてドアを開閉する音、廊下を走る音が聞こえ、それがトワだとわかった。
トワがユエの部屋に入り天蓋付きベッドのカーテンを開けると、ユエの膝の上に血に染まったましろが!
それはユエの中の『何者か』の仕業で、正気に戻ったユエは目の前にいるトワではなくソウの名を呼ぶ。心が荒み、ユエを襲おうとするトワ。それを止めるウイ。そして、やっとユエの部屋にやってきたソウ。
「や、きっと、他のみんなと一緒で、すっぴんに見えるメイクだよね!」
自分で自分を慰める。
その時、『やる時はやる人なんで』という涙の言葉が甦り、
「やるときはやるって何をだよー!」
思わず叫んでしまった。
「……明日、トワとユエのキスシーンもあるんだよな。トワは今どんな気持ちで……っつか、明後日にはオレとトワのラブシーンもあるじゃん!」
独り言が止まらないウイであった。
シーン64〜
ウイはトワの部屋を訪ねる。
荒んだ気持ちになっているトワ。「おまえが代わりになれよ」というトワに「いいよ」と答えるウイ。
トワの衣服を脱がし、過去に一度見たことのあるタトゥーに口づける。トワは反撃して噛みつくようにウイにキスをする。
原作ではこの後セックスシーンが事細かに描写されているが、シナリオはこのキスシーンで終わっていた。
しかし、トワのタトゥーに口づけるところとか、トワにキスされるところとか、それだけでも想像しただけで顔が熱くなる。
そして、永久脱毛した足も見せなければならない。ライブ衣装も移動時の私服も足を出すことはけしてなかったのに。
(いったい、どんな顔してトワと向き合えば……)
今までのシーンですら何度もリテイクを繰り返しているというのに、一日費やしても、いや、一週間経ってもOKが出る気がしない。
はぁ〜と大きなため息をつく。
手入れをする手はもうずっと止まったままだった。続きをする気持ちも萎え、終了。
「なんか喉乾いちゃったな」
ティッシュで手に残ったクリームを拭きつつ部屋の隅に向かう。
高さ六十センチほどの、アンティークな装飾をされたダークブラウンのキャビネットがあった。取っ手を引くと中は冷蔵庫だった。
「あー、何もない〜」
中に入れてあったペットボトルの水はもう飲み切ってしまったことに気づく。
(でも、どうしよう。オレ、もうすっぴんじゃん)
冷蔵庫を閉めて、ぴたぴたと自分の顔を触る。
(今何時だ?)
部屋の、これまたアンティークな壁掛け時計を見ると、午前一時前だった。
(さすがにもう部屋の外には誰もいないか?)
「よし! さっさと行ってさっさと帰ってこよう」
ウイは一階のキッチンへ飲み物を取りにいくことにして、そっと扉を開けて部屋の外に出た。
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