4 / 5

第4話

 気がつくと俺は柔らかい敷物の上に横たえられていた。覆いをかけたランプの薄暗い光にあたりはぼんやり照らされている。 「気がついた……な」  男が膝をついて俺のうえにかがみこんだ。俺は口をひらいたが、何時間も叫んだみたいに喉がひりついて、口はからからだ。 「おまえはダナエの実を大量に飲まされたんだ。命の危険は去ったと思うが……」  男は俺を抱き起こすと、背中を支えたまま木の椀を俺の口にあてがった。水の匂いがするのに、うまく飲みこめない。こぼれた水が胸の上を流れていき、俺は自分の服があちこち裂けているのに気がついた。 「おまえが自分でもがいて……破った。ダナエの実のせいだ」 「ダナエの実……?」 「媚薬だ。もう抜けたと思うが……」  媚薬だって?  俺は男の顔をみつめ、その腕や頬にあちこちひっかき傷があるのに気づいた。俺がやらかしたのだろうか。気を失うまえに感じた妙な熱はなくなって、頭の働きも元に戻っている。  それでも男をみていると、俺の体の底でじくじくと疼くものがあった。情欲の波がまた皮膚の下でたぷんたぷんと揺れる。俺はまばたきし、そして俺を支えている男の眸の中でもおなじ波が揺れるのをみてとった。男自身もはちきれそうな欲情をこらえているのだ。  俺は唾をのみこんだ。まだ喉が乾いている。 「水をもっと……くれないか」 「ああ」  男は床に置いてある水差しにちらりと目をやったが、手を伸ばそうとはしなかった。俺も男の顔や、喉や、がっしりした肩から目を離せなかった。俺たちはみつめあい――そしてあっと思ったときには、俺の背中を抱えていた腕に体をおさえつけられ、俺は男の下になって自分から唇を吸っていた。  舌をからめると喉の渇きは消えて、そのかわり男の体がもっと欲しくなる。ずっと張り型だけを使っていたから、俺は実は人肌に飢えていたのかもしれない。でもあの冒険者や他の人間には、一度もこんな欲をおぼえたことはないのに。  俺は男の下で身をよじらせて、なかば裂けてしまった服をぬぎすてた。胸のとがりを上にいる男におしつけようとしたら、男は呻き声をあげながら半裸になった。それでも、昔寝た村の連中とちがって、唇で俺の胸や肌をくすぐるようにたどるから、俺はじりじりして自分から男のズボンの前をあけた。下穿きから飛び出したのは薄暗い明かりの中でもびっくりするくらい太くて長いモノで、俺はまた唾を飲みこんだ。  それでも男は急ごうとせず、こんどは俺をうつぶせにして、ゆっくり尻の奥を弄りはじめる。これも媚薬のせいだろうか、油も何もつかった様子がないのに、男の指が入ってきても異物感も痛みもなくて、俺は誘うように腰をもちあげて、もっと来てくれとせがんだ。  張り型で馴らされた奥の方がたまらないほど疼いて、男の立派なモノがほしくて、どうしようもない。ついにそれが中に入ってきて、さらにずぶっと奥までつらぬかれたとたん、頭のてっぺんで星がはじけたような真っ白の快感がやってきた。しかも一度で終わらない、男が動くたび、何度も、何度もだ。 「あ、あああ―――」  男はうつぶせになった俺の胸を支え、腰を浮かせたまま何度もくりかえし突き、俺は背をそらせ、男が動くのにあわせて腰を揺らした。男が俺の首筋でうめくのが聞こえ、腹の奥ふかくに精が吐き出される。それにあわせるように俺も声をあげながら達して、そのまま体を丸めて横たわった。背を向けたままの男のモノがずるりと中から出て行く。 「大丈夫……か?」  いたわるような声をかけられたが、俺はまだ甘い余韻のなかにいて、うなずくだけで精一杯だった。男の手が俺の髪を撫でている。それもまた心地よくて、なんでもいいからしばらくこのままでいたい、と思ったときだった。俺の腹の中で何かがむくっと動いた。 「ひゃっ? な、なに――」  おかしな声をあげてしまったのは、腹の中のそれが、さっき男のモノを咥えていたときの快感を呼び覚ますように動きながら、どんどん下へ、尻穴の方へ動いていくのがわかったからだ。  催しているときともちがう、張り型とも男根ともちがう、痺れるような快感とともにそれが動いて、俺は無意識に息を吐き、体を揺すっていた。  すぐ隣で男があぜんとした目で見ているのがわかったが、止められない。俺はうつぶせになり、目をぎゅっと閉じて、快感に全身をふるわせながらそれが出て行くのにまかせた。尻から股のあいだを固いものがころがっていく。  目をあけると鈍く光る雫型のものがついた膝のあいだに落ちていた。いったいなんだ?   そう思ったときあたりが明るくなった。男がランプの覆いをとったのだ。 「そこをどけ」  乱暴に押しのけられ、俺はびくっとした。男は俺がいたところから、ランプの光にてらてらと輝く、雫型の石を拾い上げた。透明感のある深い瑠璃色で、透明な粘液に覆われている。  その時になって俺はハッと気づいた。あれは俺の中から出てきたのだ。同時に頭に思い浮かんだのは、金に変わった湿布のこと。  まさか、中に出されて気持ちよくなると、俺は金じゃなくて宝石を出してしまうのか? 「そ、その石は……」  男は手のひらの上で青い石を転がしている。あんなところから出てきたというのに、なぜか敷布も石もぜんぜん汚れていない。どう説明すればいい? だいたい、この男は俺がこの石をひりだすところを最初から最後までみていたのだ。 「これはいま、おまえが産んだものだ」  男はこわばった声でいった。俺は何かいいわけしようと思ったが、言葉が続かなかった。でも男は気にしていないみたいだった。それどころかみょうに納得したような表情で、俺の顔をしげしげとみつめて、いった。 「つまり、おまえはドラゴンだ」

ともだちにシェアしよう!