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第1話
「寒いな」
毎日つい言ってしまう言葉。真っ暗な部屋の電気をつけると掃除をさぼっている証拠のように家具に薄っすら積もった埃が見える。
ストーブをつけてテーブルの上のディスプレイとPCの電源を入れた。ディスプレイはTV番組、PCはRPGのゲーム。両方並べて時間を過ごす――これが俺の時間。
朝起きて簡単な身支度をして店に向かう。仕事をこなして21:00くらいに暗い部屋に戻る。そしてデジタルをお供に軽く飲みながら店の残りもので適当に空腹を満たす。40歳を越えた年齢を考えると身体にいいはずがないこの生活。「ヘタに長く生きたっていいことはないだろ?」これが周囲に対しての言い訳、そして自分への言い訳。
『結婚していない独身者のほうがストレスは少ないので癌にかかる確率は低いのです。ただし治癒率は圧倒的に既婚者の方が高い』
最近やけに多い医者と芸能人がこぞって健康をテーマに頑張る番組。画面に映る医者の言うことはもっともだ。「家族のために生きていたい」これがない俺がもし癌にかかったら、しゃーないなと思うだけだ。生還なんて単語は浮かばないだろう。
誰かのために?あいつのために?
3年前にすり抜けて行った存在を想うといまだに後悔で体のどこかがチリっと痛む。自業自得とはいえ、もう少しまともな対応ができなかったものか……考えても仕方がない。
チャンネルを変えるとクリスマスプレゼント特集とやらで、珍しいグッズやレストランのクリスマスプランが紹介されていた。医者の次はクリスマス。どっちも俺には必要ない。
CSのニュースチャンネルに切り替えミュートにした。別にニュースが見たいわけではないが、そこに映る映像という現実があることに意味がある。
なんだろうな、なんの為に生きているんだろうな。
小さいカフェが俺の生業で、そこに来る客との関わりが俺の大部分の時間だ。味わっているのかよくわからない程真剣にPCに向かう客。本をひたすら読んでいる客。決まった曜日にだけくる客。面白味のない俺との会話を楽しみにくる客。
決して彼らとの生活は重ならないのに共有する時間だけが過ぎていく。
そうか……自分とだけ向き合うことに飽きたんだな。漂っていく時間の中にだけ浮いているから生きる意味も実感も沸かないのだろう。
「俺の残りの時間はどれくらいあるのかな」
呟いた独り言は温度の上がりきらない部屋の空気に紛れて消えていく。
まるで俺の生活みたいじゃないか。実態も答えもないまま、ただただ流れていくだけだ。
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