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第2話
♪♬♫♪♪
耳慣れない着信音にビクリと肩が震えた。
かかってきた……。
3年鳴る事のなかった着信音はたった一人のために設定した音だ。未練がましく番号を消すことをできずに残している自分に時々呆れ、消そうと試み、結局はそのままメモリーに残っている番号。それが鳴っている。
ゆっくりスマホに手を伸ばしディスプレイに映る名前を確かめて心臓がドクンと脈打った。
出るべきか、出ない方がいいのか一瞬迷う。「後悔」という言葉が浮かび指は自然に画面をスライドした。
「もしもし?」
『あ~えっと……藤田?』
「ああ、どうした?」
耳に届く音は心臓をドキドキさせる男の声だけではなかった。人の声と車の音、笑い声。師走を間近に控えた繁華街の雑踏が雪崩れ込んでくる。
『酔っぱらっちゃって』
「大丈夫か?」
少しも気の利いたことが言えない自分が腹立たしい。
『なんか足にきて。思ってた以上になまってるみたいだ』
<あれ?大丈夫ですか?こんな所に座っていたら凍えちゃいますよ?>
<どこか入ります?>
アルコールのせいでトーンが高くなった女達の声がした。無防備すぎだろうが。
「おい!日高!今どこにいるんだ?迎えに行くからじっとしてろ!ついでに女を遠ざけておけ!」
『4丁目の交差点のマックの並びにあるセコマの前』
ボスっと音が聞こえた後女達の「だめ~、寝ちゃだめだってば」という声とガサガサした音のあと電話が切れた。ソファの背にひっかけたままだった上着を掴みボトムの後ろポケットに財布を突っ込む。
3年もたって何で連絡してきたのか。今はそれを考えるよりも迎えに行くことが先だ。
タクシーを捕まえてすすきのに向かう車中で鍵をかけないまま飛び出したことに気が付いた。
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