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第3話
「一人ですか?」
「大丈夫じゃないよね?」
「さっき電話してたよね」
タクシーを降りて日高の言うコンビニの前に向かうと、植え込みに腰を下ろした黒いコートの男の前に女が2人立っていた。次々に質問しながら肩をゆすっている。
その光景に苛立ちがこみあげ、自分の中に居座っていた存在の大きさを改めて実感する羽目になった。
「おい、日高」
女の後ろから声をかけると、驚いたように女達が振り向いて俺を見詰めた。背後からいきなり男の声が聞こえてくれば驚くのは当然だろうがそれを気にしている場合ではない。女達は左右に分かれて道をあけるような形になり、力なく座り込んでいる日高が見えた。
「どうした。帰れるか?」
日高はぼんやり俺を見た後、自分の額を手のひらで覆い前髪あたりをゴシゴシこする。照れ臭い時にするその懐かしい仕草を認めて自然に頬が緩んだ。
「まだ同じ所に住んでいるの?」
「ああ、店の近くのぼろいマンションだ」
日高の手が伸びてきたのでしっかり握って引っ張りあげた。前よりも軽く感じる身体を支えながら、腰を下ろしていたせいで汚れた後ろを叩いてほろう。
「藤田の所に連れて行ってくれないかな。自分の家に辿り着ける自信がない」
「……それはいいけど、どれだけ飲んだ?酒の強いお前がこんなことになるなんて」
日高は俺の顔を見た後、視線を外した。歩道を歩く酔っ払い達に目をやり、ゆっくり瞬きをする。瞳の表面に色とりどりの看板の光が映り込んでいた。
「快気祝いってやつ。自分が思っているほど回復してなかっただけ」
心臓がギュウと掴まれたように苦しくなり、喉の奥が塞がった。快気祝い?回復?
予想外の言葉に何か言えばいいのに、なにも思いつかず黙って腕を引く。
「帰ろう」
またしても気の利かないことしか言えない自分に苛立った。
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