62 / 62

61 物語の終わり方 *R-18

  「ニア、締め過ぎると動けない」  フィルバートが笑い声混じりに言うが、自分でも自分の身体を制御できなかった。ただただ、ずっとこれが欲しかったのだという気持ちが溢れて止まらない。 「そのまま足を開いていろ」  命じるように囁いて、フィルバートはニアの腰を掴むと、ゆっくりと律動を開始した。久々の柔らかい体内を味わうかのような緩慢な動きだ。先端まで引き抜かれて、奥までまた緩やかに突き刺される。じれったさすら感じる動きだが、それでもじわりと快感が湧き上がってきて腰が揺れた。 「あっ、ぁ、ぁっ」  一番奥を先端で押し潰される度に、頭の芯がじわりと痺れるような感覚を覚えて、開いた内腿が震えた。それに気付いたのか、フィルバートは根元まで突っ込んだまま、奥ばかりを執拗にトントンを叩き始める。 「ぁ、っ、あ、だめ、だめ、で、す……っ」  ダメだと繰り返して首を左右に打ち振るのに、フィルバートはその動きをやめてくれない。むしろニアの言葉を塞ぐように、唇を重ねてくる。舌を深く絡め取られたまま最奥を強く突かれ続ける快感に、開いた足のつま先がビクビクと捌かれた魚のように跳ねる。 「んっ、ぅ、んんんっ、ぅヴ、んッ!」  フィルバートの先走りで中が潤んできたのか、奥を突かれる度にぐぢゅぐぢゅと熟れすぎた果実を咀嚼するような音が響く。その淫らな音に、頭がぼやけていくのを感じる。  腹の奥で熱がどんどんと膨らんでいって、今にも破裂しそうだった。フィルバートも限界が近いのか、ニアの腰骨に指先がキツく食い込んでいる。 「ニア、出すぞ」  唇を離して、フィルバートが荒い息混じりに囁く。その言葉に、また体内が期待するように収縮した。逃さないと言わんばかりに陰茎を食い締める粘膜に気付いたのか、フィルバートが咽喉の奥で笑い声を漏らす。 「お前は、本当に可愛いな」  今はその甘い言葉を恥ずかしいと思う余裕すらなかった。そのまま腰を激しく打ち付けられ始めて、体内を滅茶苦茶に掻き回される快感に呑み込まれていく。腹の中を好き勝手に荒らし回る長大なものに、咽喉から素っ頓狂な声が溢れた。 「ぁあ、ぁ、っ、ぁああぁッ!」  そうして、一番奥深くまでガツンと先端が潜り込んだ瞬間、熱いものが注がれた。ビュービューと勢いよく体内に叩き付けられる感覚に、眼球の奥で火花が散る。 「ぅ、ぁ、ぁぅう……」  射精していないはずなのに、絶頂したような快感が全身に広がっていた。ニアの中に思う存分吐き出しながら、フィルバートは腰をゆっくりと前後させている。火照った粘膜に粘着いた精液をずるずりとなすりつけられる感覚が堪らなかった。フィルバートに自分のすべてを侵されているようで、胸が満ち足りる。  長い射精が終わっても、フィルバートはニアの身体から出ていかなかった。まだ腹の奥に突き刺さったままの陰茎が硬度を保っているのを感じて、ニアは無意識に口元に緩んだ笑みを浮かべた。 「ぁ……まだ、硬い……」  へにゃりと崩れた笑みを見せるニアの姿に、フィルバートは嬉しそうに目を細めた。 「一度で終わるはずがないだろう」  そう囁くと、フィルバートは身を乗り出すようにしてニアに口付けてきた。舌同士をぬるぬると擦り合わせながら、快感の余韻に浸る。  中でドクドクと脈打っているものを感じていると、不意にフィルバートがニアの腰を掴んでぐるりと体勢を入れ替えてきた。仰向けになったフィルバートに馬乗りになっているような体勢にさせられて、とっさにカッと顔を赤らめる。  ニアの太腿をゆるゆると撫でながら、フィルバートが楽しげに言う。 「お前の好きに動いてくれ」  そう促す声に、ニアは目元を苦く歪めた。フィルバートを睨み付けながら、低い声を漏らす。 「それ、意地が悪い、です……」 「知っている。俺は意地が悪い」  平然と肯定されるのが余計に腹立たしい。ムッと唇をへし曲げると、下から軽く腰を突き上げられた。腹の奥が刺激されて、とっさに唇から嬌声が漏れた。 「あ、ぁッ」 「なぁ、ニア、頼む」  甘えるように耳元に囁かれて、また脳みそがぼやけていく。連続で下から緩やかな刺激を送られて、ニアはしぶしぶ上半身を起こした。体重を一気にかけないように、両手をフィルバートの下腹に置いたまま、両足裏をベッドについて腰を浮かせる。自分のそのはしたない姿勢に、また眉がくにゃりと歪んだ。  これ以上正気でいたら羞恥のあまり卒倒しそうなので、頭を真っ白にして腰を上下に動かし出す。途端、ずるずると太いものに粘膜を擦られて腹の奥が痺れた。 「ぁ、は、ぁあ、ぁッ!」  先ほど吐き出されたフィルバートの精液が、腹の中でじゅぶじゅぶと音を立てているのが聞こえる。陰茎が奥まで押し込まれる度に、繋がった箇所から生ぬるい液体が溢れ出すのを感じた。 「あぁ、最高の光景だな」  ニアの内腿を撫でながら、フィルバートがうっとりとした声で呟く。その言葉にニアは、ううう、とうめきながらも、従順に腰を上下させ続けた。ぷっくりと膨れた前立腺を亀頭で繰り返し抉られるのが堪らなくて、次第に自分の腰の動きが大胆になっていくのを感じる。 「ん、んぁ、あ、あァ、あぁ、ああぁ」  緩やかだった腰の動きがどんどん激しくなり、半開きになった唇からだらしない声が漏れた。自分の良いところに硬く脈打つものを擦り付けるのが、とてつもなく気持ちよかった。まるでフィルバートの陰茎を使って自慰でもしているような背徳的な気分だ。 「ぁ、あ、きもちぃ……フィルさま、きもちい、ぃ……」  普段なら言わない言葉が口をついて溢れてくる。すると、うぐっ、とうめくような声が眼下から聞こえた。直後、内腿をキツく掴まれて、背中がベッドに押し倒された。同時に、ガツンッと音が鳴りそうなぐらい強く腰を叩き付けられる。 「あァあぁッ!」  鋭い嬌声が咽喉から迸る。そのまま容赦ない抽挿が始まる。膝裏を鷲掴まれて、尻を上向きに固定された。そうして真上から杭でも打つように腰が何度も何度も叩き付けられる。体内の一番奥をまっすぐ貫かれる衝撃に、ニアは後頭部をシーツに擦り付けて喘いだ。 「ァ、アアッ、ぁあぁ、ぅあぁッ!」  激しい律動に、体内の精液が泡立って縁の周りからどぷどぷと溢れ出す。ニアは無我夢中で、フィルバートの頭を両腕で引き寄せた。そのまま噛み付くように唇を重ねる。舌を絡めたまま、ニアは心から愛する者に体内を陵辱される快感に浸った。  そうして、一番奥に先端がぐじゅっと埋まり込んだ瞬間、再び体内で熱が弾けた。フィルバートの絶頂を感じて、ニアの陰茎も小刻みに戦慄く。開き切った鈴口から、残滓のような白濁がビュッと水鉄砲みたいに噴き出すのを感じた。 「ぅ、ん、んんっ、ぁ……」  ゆるゆると体内を陰茎が行き来して、最後の一滴まで残さず注ぎ込まれる。痺れるような快感が続いて、開いた両足がピクッピクッと痙攣した。  銀糸を繋いだまま、ゆっくりと口内から舌が引き抜かれる。フィルバートは湿ったニアの髪の毛に指を差し込むと、そのまま小さな子でも褒めるように頭を優しく撫でてきた。 「疲れたか?」 「はい……でも……」 「まだ欲しいか?」  訊ねてくる声に、恥ずかしさのあまり視線を伏せてニアはうなずいた。腹の奥の疼きは満たされておらず、まだフィルバートが欲しいと訴えていた。  フィルバートは小さく笑い声を漏らした後、そっと腰を離した。ずるりと体内から抜き出される感触に、背筋がわずかに粟立つ。  そのままフィルバートは、サイドテーブルの上に置かれた水差しを手に取った。水をグラスに注ぎながら、ニアに訊ねてくる。 「咽喉は乾いたか?」  うなずくと、フィルバートはベッドに腰掛けてニアの背を手で支えてきた。上半身を軽く起こして、口元に近付けられたグラスから水を飲み込む。はぁ、とニアが満足げに息を吐き出すと、フィルバートは残った水を一息にあおった。  グラスをテーブルに戻してから、フィルバートがニアの隣に横たわる。そのまま、ひどく柔らかな手付きで、ニアの額に滲んだ汗を指先で拭ってきた。 「やっと、ここまで来れた」  ぽつりと呟くと、フィルバートはニアの左手を掴んできた。その薬指に、そっと指輪がはめ込まれる。王家の紋章が刻まれた指輪だ。フィルバートがはめている指輪と色違いということは、ニア用に作られたものだろう。  ニアが目を大きく開いて見つめていると、指輪に口付けながらフィルバートが呟いた。 「我が主君に、永遠の愛を捧げます」  ロードナイトの契約の誓いの言い換えだと気付く。その言葉に、ニアはくしゃりと泣き笑いを浮かべた。 「俺が主君ですか?」 「ああ、お前が俺の主君だ」 「じゃあ、俺の命令は何でも聞いて貰わないと」 「何でも聞くさ。お前の命令とあらば、馬小屋の掃除でもするぞ」  軽快に答えるフィルバートに、ニアは背中を丸めてクスクスと笑い声を漏らした。笑うニアを、フィルバートがひどく愛おしげな眼差しで見つめてくる。  ニアの頬を撫でながら、フィルバートが柔らかな声で囁く。 「ずっと、運命が怖かった。いつかお前が俺から離れていくときが来るんじゃないかと思って」 「もう、運命は怖くないですか?」  ニアが訊ねると、フィルバートは目を細めて笑った。 「ああ、もう怖くない」  安堵と愛しさに満ちたその笑顔に、胸が打ち震える。不意に心臓を突き上げるようにして込み上げてきた感情に、目がじわりと潤んだ。 「俺も、もう怖くないです」  そう囁くと、フィルバートがニアの背中を抱き締めてきた。屈託のない笑い声が耳たぶをくすぐる。それが嬉しくて、幸せで堪らない。ニアが目の前の胸板に額を押し付けると、フィルバートは楽しげな声で言った。 「そうして、二人はいつまでも幸せに暮らしました」  まるで絵本でも読むみたいな演技がかった口調だ。 「なんですか、それ」  ニアが視線をあげて訊ねると、フィルバートはどこか得意げな声で答えた。 「俺の好きな物語の終わり方だ」  らしくないぐらい子供っぽい言葉に、ニアはフィルバートの背中に腕を回しながら笑い声混じりに答えた。 「俺も、その物語の終わり方が好きです」

ともだちにシェアしよう!