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血塗られた約束 1

「セオ神父さまぁっ!今日はどんなお話聴かせてくれるの?」 ここは、田舎町にある小さな教会。 その祭壇に立ち、数名の子供たちに微笑みかけているのはオレ、青月 星(あおつき  せい)だと思う。 自分でもよく分からないまま、このおとぎ話のような世界で生を受けたオレは、産まれてすぐにこの教会の祭壇に置き去りにされていた。 なぜ、こんなことになっているのか。 その記憶は、あまりにも曖昧で説明すらできない。たぶん、前世のオレはいじめられっ子な中学生だったように思うのだけれど……どうしてかその世界線が突然途絶えて、そしてオレはこの世界に居座っている。 きっと。 転生とか、そんなようなことが起こったのだと思う。ただ、分からないことが多過ぎて、今でもここが現世なのか、夢の中なのか把握はできていないけれど。 この世界で生きていくことを余儀なくされたオレは、この教会の聖女様と神父様に育てられ、修道士としての道を歩めるように、ここで見習い生活を送っているんだ。 神父様のお古の修道服、黒いカソックは貧弱なオレの身体をすっぽりと隠して。大きな瞳に真っ黒な髪、愛想がなく人見知りなオレの性格までを真の幸福に導くようにと戒めてくれる。 「セオはまだ16歳ですから、神父様ではなく修道士見習いですわ。セオ、せっかくだから子供たちに(しゅ)のお話を聴かせてさしあげて」 「あ、はい。リヒカ様の仰せのままに、聖書の朗読を───」 オレに、セオと名付けてくれた聖女様。 町の子供たちに学問を教え、小さな教会の横で慎ましく争いのない穏やかな暮らしの手ほどきをしている聖女様はシスターリヒカ。 帽子のようなウィンプルの中はサラサラの金髪、絵に描いたような美しさは聖母マリア様のようなお人。 そして、この教会の神父様はルーグス司祭。 見習いのオレとは違い、神父様の姿はとても上品で。それを引き立てるような丸く銀縁の細い眼鏡が良く似合う神父様。 この小さな田舎町で唯一の教会を守り抜いている神父様は、毎日のミサに加えて祈りの時間、それに事務や奉仕作業とこの町のため、民のために神に召命されているお方。 そんな二人の元で、修道誓願を立てるべく信仰生活を目指すオレは、まだまだ見習いの身。修道士になるには、18歳以上でないと認められず、協会に入会すらさせてもらえないけれど。 この出逢いも神の思し召しだからと、お心のお優しいリヒカ様とルーグス様に助けられたオレは、この町での生活がとても気に入っているんだ。 (しゅ)に従い、清く生きようと心から思うことのできる今が尊い。子供たちに唱えている言葉を自分の中で解釈しつつ、今日もみんなの祈りが届くようにと願う。 「とても良い朗読でしたよ、セオ……さて、皆で祈りを捧げましょう。クリスマスも近いですからね、聖日の今日はアドベントリースに一本目の火が灯ります」 ルーグス様にそう言われ、照れ臭く感じたオレは蝋に灯った火のように頬を赤く染めてしまう。 いつの間にか教会に集まっていた町人とともに、オレも(しゅ)に祈りを捧げて。一日が無事に終了し、食事を済ませて自室へと向かうため廊下を歩いていたオレの足を止めたのは、神父様と聖女様の静かな話し声だった。

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