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血塗られた約束 2

「クリスマスが近いというのに、隣街で若い民がヴァンパイアに襲われたらしいとの噂がこの町にも広がっている。本当に、闇の住人には困ったものだ」 「ヴァンパイア自ら、浄化される教会に近づくことはないと思うけれど……用心しなくてはなりませんね、ルーグス」 聞き耳を立ててはいけないと分かっていても、聴こえてしまった会話。リヒカ様とルーグス様の話が事実だとしたら、子供たちもそのうち狙われてしまうかもしれない。 クリスマスを喜び待ち望む子供たちと一緒に、リースの飾り付けやツリーの用意を行ったばかりなのに。 二人の会話を聴く限り、捕食のために襲われるのは基本的に若い女性らしいけれど。人の生き血を求めて夜な夜な彷徨うヴァンパイアが、もしこの町にもやって来たら……一番はじめに狙われてしまうのはきっと、リヒカ様ではないかと思った。 この町に、若い女性はそういない。 若者は皆、隣街まで出稼ぎに行っている。だから、とても綺麗で美人なリヒカ様がターゲットにされてしまうんじゃないかと、オレは良からぬ不安を抱いてしまって。 騒つく気持ちを鎮めようと足早に自室へと戻ったオレは、寝る前のお祈りをし眠りに就いていった。 リヒカ様もルーグス様も、揺るがない信仰心で強いお心をお持ちの二人は、オレに向かい暖かな笑顔を見せてくれるお人。その笑顔を思い浮かべ、眠りから覚めたオレは、今日も自室で朝のお祈りをする。 そして。 朝の祈りを捧げたあと、部屋の換気も兼ねてオレは小さな窓を開けていった。 「今日も朝からいいお天気……って、あれ?」 窓ガラスの隅に真っ黒な塊が落ちているのを発見したオレは、恐る恐るソレに手を伸ばす。手のひらサイズくらいの得体の知れない物体に触れてみると、オレはその柔らかさに驚いた。 ふわふわとした羽毛に、ピンと尖った耳が二つ隠れている。身を包むように折りたたまれた翼と、可愛い小さな手足があって。 「……コウ、モリ?」 間近で見るのは初めてだけれど、とても愛らしい姿に釘付けになったオレは、両手で漆黒のコウモリを掬い上げていた。 朝の光が眩しかったのか、僅かに出来た日陰に身を隠していたコウモリさん。オレが触れてもピクリとも動かないその子は、何故だかオレの姿と重なってしまう。 前世での記憶はほとんどないけれど、それでも惨めな想いをしていたことはなんとなくだけれど覚えている。オレはいらない存在なんだと、自らの命を軽率に扱っていた自分に後悔の念が募ってしまうから。 身も心もボロボロだった前世の自分と、目の前のコウモリさんはよく似ている。毛並みはすごく綺麗だけれど、この子はどう見ても弱っている様子だから。オレを助けてくれたリヒカ様のように、オレにも何かできることがあるならと……慈しむ心で少し冷たいコウモリさんを温めていたオレの瞳から、一筋の涙が溢れ落ちていく。 「……(しゅ)よ、小さな命をお救いくださいませ」 ぐすんっと鼻を啜りつつ、拭えない同情に揺れてしまう心を隠して。オレの涙で濡れてしまったコウモリさんの鼻先に触れ、開かない瞼を覗き込んだ。 ───その、瞬間。 オレの手に包まれていたはずのコウモリさんは姿を消してしまい、その代わりように現れたのは大きな漆黒の翼を持つ謎の男性だったんだ。

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