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プロローグ

寂しい夜は、ベッドに潜り込んで本を開く。 誰も僕を邪魔しない、ひとりだけの秘密の時間。 分厚いページをめくれば豊かな世界が広がっている。魔法使いにお城、ユニコーンに王子様。いつも意地悪をしてくる父さんや兄ちゃん達とはちがう、優しい王子様。 (僕もいつか舞踏会に出かけて、王子様とおしゃべりをしてそれで……) 甘い甘い、夢想の時間。きらきらお星様と宝石が輝く時間。 「グウェン、何見てんだよ!」 パッと布団がめくられ、兄がにやにやしながら本を奪ってきた。 「ちょっと、返せよ!」 「なになに、ユニコーンの背中に乗って王子の待つ舞踏会……アハハ!なんだこれ、こんなの現実にあるわけないだろ!」 「兄ちゃんには分からないだろうね!」 「いや、だってそもそもユニコーンは心の綺麗な少女にしか見えないだろ。お前一生かかっても会えないよ」 「……え」 「王子は女が好きだし」 「……そんなの、」 「お前は男で、しかもゴブリンだろ。人間の王子と恋愛すんのなんて地球が滅んでもありえないから!!!」 ありえないから。 ありえないから。 ありえ……ないから。 …………………… ……ありえないんだ……。 ……ゴブリンと王子が恋をするなんて。 その日以来、僕は夢物語を見るのをやめた。

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