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第1話 蓮

 朝、目覚めたら有名に……は、なっていなかったが、大変なことにはなっていた。  前日の夜、次はカラオケだと同期の友人と大騒ぎをしてからの記憶がない。  そして今、なぜか知らない部屋で下着一枚で目が覚めるというありえない状況の中にいる。何があったのかわからない。ここはどこだと、軽いパニックになる。  自分の置かれている状況をもう一度考えるがさっぱり理解できない。体を起こすと、ずきっと頭が痛む。  あたりを見回すが、眼鏡なしではぼんやりと霞んでしか見えない。寝るときは眼鏡は枕元に置く習慣がある。手探りで探してみるが、見つからない。これじゃあ、ほとんど何も見えない。  「ようやく目が覚めたのか?コーヒー飲むか、酔っ払い」  そう声をかけられ声の主を見る。顔を向けてはみても、眼鏡なしでは話しかけられた相手の顔さえ判別がつかない。少なくとも同期の女子ではないことだけは確かだ。明日から会社にいられなくなることはないと安堵する。  「す、すみません、なぜ俺はここにいるのでしょう」  顔の見えない、声の主に恐る恐る聞いてみる。  「"俺"じゃない、自分のことを言う時は"私"だ。営業として正しい言葉を使えといつも言っているだろう」  「えっ?た、田上主任っ!ですか?」  「上原の言葉遣いは直らないな。とりあえずこれを着てろ。それと眼鏡、ないと何も見えないんだろう」  グレーのスエットの上下と眼鏡を渡された。  昨日の夜は……  確か、同期と飲んでいたはずだ。正直、主任と会話した記憶さえない。  「すみませんでした。あの、主任?ご迷惑をおかけしたようで」  「おう、迷惑かけられたわ。お前のスーツ、泥で汚れていたからバスタブに放り投げてあるぞ」  眼鏡をかけ、指さされた寝室の奥の方を見るとドアがあった。  「失礼します」  主任に声をかけてそのドアを開ける。そこには泥にまみれたスーツが、綺麗なバスタブの中で乾燥してグレーの迷彩柄のようになっていた。  「あの、俺じゃなくて、私、昨日どうしたのでしょうか?」  「別にいいよ、プライベートでは俺でも。昨日、お前はうちのマンションの前の側溝にはまって寝てたぞ」  え?!側溝にはまって寝ていた?どういう状況でそんなことになったのだろう。  正直、記憶は全くない。  俺は主任の淹れてくれた熱いコーヒーを小さくなりながら飲んだ。

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