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第3話 蓮
「あのぉ、主任。つかぬ事をお伺いしますが、私の鞄はどちらにありますでしょうか」
申し訳ないやら、恥ずかしいやらで声が小さくなる。
主任は「ああ」と声を上げた。
「お前に、聞こうと思っていたんだ。昨日拾ったのは上原、お前だけだったからな」
冷静に主任に返されてしまった。という事は、鞄は行方不明という事になる。財布やアパートの鍵、それより運転免許証やクレジットカード、社員証まで全てあの中に入っていると言うのに。
「まずい、どうしよう。し、主任どうしたらいいんでしょう?」
「とりあえず落ち着け、昨日最後の記憶はどこだ。誰と一緒だった?」
「総務の木下がもう飲むなって言っていて、それから記憶が。そもそも私は、なぜ何で主任のマンションにいるのでしょう?」
主任は俺の携帯電話をポンと投げてよこした、総務の木下に電話して確認しろという。
「もしもし、俺、そう上原。昨日の事なんだけど、……うん、そう。それで?……え?ご、ごめん、悪かった。そうか」
木下の話が本当なら(まあ本当なのだろうけれど)飲みすぎだと止める同期のみんなに、このくらいじゃ酔わないと豪語し、酔ってない証拠に走れると言って走ったらしい。
そのまま酔いが更に回って、同期の女子にもたれかかって吐きそうになっていたのだという。
手に負えないと判断した木下が流しのタクシーを捕まえて、俺の住所を伝えて乗せたとらしい。なのになぜか主任のマンションの側溝にはまっていたのだ。
「あの、タクシーで自分のアパートに帰ったはずなんですが」
「俺は知らん。とりあえずクレジットカード止めろ、後は警察に電話して落し物が届いていないか問い合わせてみるんだな」
主任に言われてクレジットカード会社の番号を調べ電話する。すぐに警察にも連絡をするが昨日の記憶がほとんどない状態ではどうも説明がつかない。とりあえず届け出を出しに交番へ後で行くことになった。
家に帰りたくても家の鍵も無い、一体どうしたらいいんだろう。現金もなければ、カードもないこの状況なのだ。
「不動産屋に電話してみろ、合鍵が置いてあるはずだ。月曜日なら銀行も通帳があればお金はおろせる。社員証は再発行の手続きすれば良いだろう」
主任がいてくれて本当に良かった、一人じゃパニックで何もできなかった。
不動産屋に電話を入れると鍵はアパートのオーナーが持っているという。オーナーに電話して折り返すと言われほっとした。とりあえず家に帰れさえすれば、なんとかなる。
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